森で暮らす人たち 【5】MOUNTAIN RESEARCH主宰・小林節正の場合
子どもの成長のため、仲間との時間のため、趣味のため、そしてもちろん自分自身のため。都会での居場所を持ち続けながら森に自分の住まいを見つけた人たちに、森での暮らしの喜びを教えてもらった。【5】MOUNTAIN RESEARCH主宰・小林節正の場合(『ヌメロ・トウキョウ(Numero TOKYO)』2021年3月号掲載)
山での暮らしを心得るための実験的な道場
小林節正 MOUNTAIN RESEARCH主宰
マウンテンリサーチ主宰の小林節正が、長野県の山裾にある手つかずの土地を購入したのは2007年のこと。その訳はアウトドアメーカー、ザ・ノース・フェイスのテント「2メータードーム」を試してみたいという気持ちからだったという。このテントは、エベレストを登頂する際にベースキャンプで使用されることで知られている。
「冒険でもなければ、別荘でもないベランダの延長のような感覚で、山での暮らしの要領をカジュアルに実験できる場が欲しいと考えていたんです。都内から車で2、3時間で到着する標高1500mほどの環境ですが、最初の5年くらいは毎週末通い、通年を過ごしていました」。
ここ最近も月に一、二度は出向き、設備のメンテナンスや道具の手入れを欠かさない。「夏のあいだは涼しいけれど、冬は−20℃まで寒くなる場所。でも、ここで生活するための諸事に煩わされるのが面白いのです。何といっても、電気も水も通していないのですから」と笑顔を浮かべる。
都会では当たり前のライフラインを断ち、便利な生活から距離を置くことを“オフグリッド”という。小林さんがそれを実践する動機はアナーキズム、つまりインフラに頼らない、支配するものなき場所への興味からだ。
「この環境下で、自分ができることとできないことを知る。火を起こす、木を切って土地を開き、それを乾燥させ薪を作る。徐々に上達してきて、ケガがなく滞在することができるようになる。その楽しさは、都会での快適さを大きく上回るんですよ」
Interview & Text:Aika Kawada Edit:Sayaka Ito, Mariko Kimbara, Chiho Inoue