森で暮らす人たち 【1】シンガー・UAの場合
子どもの成長のため、仲間との時間のため、趣味のため、そしてもちろん自分自身のため。都会での居場所を持ち続けながら森に自分の住まいを見つけた人たちに、森での暮らしの喜びを教えてもらった。【1】シンガー・UAの場合(『ヌメロ・トウキョウ(Numero TOKYO)』2021年3月号掲載)
生と死のコントラストが毎日を美しく輝かせる
UA シンガー
東京から神奈川、沖縄を経て、カナダの島へ。UAが都会を離れ暮らすようになった理由は、息子たちの“この世界は美しい”と思える子ども時代を守ってあげたかったからだという。 「移住前、現地を知るために家族でキャンプをしながらカナダを西から東へ横断しました。導かれるように向かった現在住む島の圧倒的な自然に対する新鮮な驚きと住む人々の佇まいに感銘を受け、住んでみたいという気持ちに。食品やヒーリングの話が自然にできる人たちで教育や環境との関わり方もスマート。理想的な子育ての地です」 15エイカーの地に、まずはできる限り廃材を活用したトレーラーハウスを建て生活を始めた。ニワトリとアヒルを飼い、池を掘り、円形の畑を作った。根菜、葉野菜、果実、花など手に入った種は何でも育ててみる。収穫が安定し、ニワトリが産む卵も増え、敷地入り口に設けた無人販売が好評だ。移住前は音楽制作の滞りを覚えた時期もあったが、現時点で自らのゴールだと思えるアルバム『JaPo』を2016年にリリース。昨春には家の改装が終わり、小さな音楽スタジオも用意した。手付かずの森に住む。「自然に対して常に持っているのは畏敬の念。日中はフレンドリーな森が夜は暗闇に姿を変え、怖くて一人では到底入れない。でも真っ暗だからこそ、本当に星が明るく輝くんです。怖がって電灯を離さないでいると、星を見ることはできない。そういった明暗のコントラストが日常の中にある」。森には野生の動物たちも暮らす。ワシやミミズク、ラクーン……。ときに襲いかかり、ニワトリのヒナを奪っていく。
「ここでの暮らしを実感するのは生死が目に見えて巡っていること。毎日がドラマで興奮の連続です。死という現実がすぐそばにあるからこそ、生きている瞬間が一層輝く。美しいものはより美しく見える。そういった体験こそが人の感情や魂を育むのではないかと思います」。
一方で、人間と自然や野生の動物たちが共生しているとはどんどん思えなくなっているのだという。人間が「所有」という感覚を持った時点で、自然の恩恵を受けるだけで何も返していないのだと。彼女が考える森で暮らすためのモットーは「焦らない、待つ、争わない、教えてもらう」。自然とは無意識そのもので、ただそこにあるもの。何も手を出さずに見つめ続けることも力になると考えている。
Interview & Text:Aika Kawada Edit:Sayaka Ito, Mariko Kimbara, Chiho Inoue