昔の写真に惹かれる理由
色褪せた一枚の写真や、ヴィンテージ雑誌の1ページがときに私たちの心を惹きつけ、クリエイターの感性を刺激する。ファッション、アート、ライフスタイルなど、さまざまな角度から「昔の写真」の魅力を探っていく。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2021年3月号掲載)
古い写真が持つ「確かさ」と「不確かさ」
私たちはどうして昔の写真に惹かれるのだろう。デザイナー黒河内真衣子が手がけるMame Kurogouchiの2021年プレ・スプリングコレクションでは、彼女がポルトガルを旅する中で見つけた古い写真と、現地で目にし、自ら撮影した風景がインスピレーションとなっている。春夏コレクションでは、無意識に撮影していたさまざまな窓の写真をきっかけに「Window」をテーマに掲げた。「ノスタルジーとはなんだろう。おばあちゃんの家のあのカーテンの空気。夕暮れの青グレーの時間とかそういうものを服にしたい。誰かの記憶」(コレクションレターより)。2013年にも古い写真に写る女性たちから想像を膨らませた洋服をデザインし、子どものころの記憶や祖母との思い出も作品に反映させてきた黒河内。「記憶」と「写真」はブランドにとって重要なピースであることがわかる。
また、画家の五木田智央も60~70年代のアメリカのプロレスやメキシコのポルノ雑誌など、古い印刷物や写真から着想を得てきた。18年に東京オペラシティ アートギャラリーで開催された個展「PEEKABOO」では、ドローイングの中にコラージュ的な手法で古い写真の要素が取り入れられ、その独特のムードが強い印象を残した。
祖父の代から宮城県で写真館を経営していた写真家・平間至は、東日本大震災をきっかけに写真を残すことの価値を再認識し、12年間休業していた平間写真館を東京で再スタートさせている。「生き生きとした魂を残したいという思いがありました。現実の世界ではすべてのことが変化し、流れていってしまう。写真だけが唯一その風景を固定し、時を止めることのできる方法なんです」。
写真の中に固定された風景と人びとの存在の「確かさ」。そして、被写体の背景や物語のすべてを掴むことはできないという「不確かさ」。古い写真が持つその二面性が私たちを惹きつけ、作り手の想像力を掻き立てるのかもしれない。