【連載】これからの服作りを探る、デザイナー訪問記 vol.6 YOHEI OHNO | Numero TOKYO
Fashion / Feature

【連載】これからの服作りを探る、デザイナー訪問記 vol.6 YOHEI OHNO

ミニマルで上質な服づくりやオリジナルな視点を貫く、日本発のインディペンデントなブランドにフォーカスする連載「これからの服作りを探る、デザイナー訪問記」。デザイナー自ら、作り手の視点でコレクションを解説し服へ込めた熱い思いを語る。見た目ではわからない(知ったら着たくなる)服の真髄を徹底深掘り。
第6回は、ウェアラブルなプロダクトというユニークなコンセプトを掲げるブランド「YOHEI OHNO(ヨウヘイ オオノ)」のデザイナー、大野陽平にインタビュー。

ウェアラブルなプロダクトという服へのアプローチ

【2020AW】

ジャケット ¥105,000

素材のタフさが生きるバイカージャケット

「麻と合皮のボンディングが素材的に面白そうだと思い素材から入りました。このごわつく感じのラフなかっこよさを生かした重衣料がいいけど、コートだと重いので、短めのバイカージャケットに落とし込みました。立体的な袖との相性もよく気に入っています」

ジャケット ¥75,000
ジャケット ¥75,000

探求の終わらない進行形のアイコンジャケット

「素材を変えて定番的に展開しているジャケット。建築のようなアプローチで、空間の中に身体を入れるという考えに、西洋的でボディに沿った立体的な服作りと、日本的で平面的な構造の両方を共存させた、曖昧なことがやりたくて行き着いた形です。いまだにこの形にふさわしい素材を模索しています」

ジャケット ¥55,000、スカート ¥56,000
ジャケット ¥55,000、スカート ¥56,000

素材とクラシックなデザインのバランスの妙

「ベルベットをキルティングしたらどうなるのかと思い、オリジナルで加工した生地です。西洋のボディスみたいなクラシックなデザインに、袖口はシャーリングさせています。ドローコードにしていて普通のパフスリーブよりも不思議なバランスなのが特徴です。もこもこしてるシルエットも可愛いなと思っています」

ジャンプスーツ ¥76,000
ジャンプスーツ ¥76,000

人気のマントディテールをジャンプスーツに応用

「元々マントドレスという定番モデルがあるのですが、ウエストに空いた4つ穴にベルトを通してシェイプして着ると、背中のボリューム感がマントのように見えるというデザインです。このディテールはシャツなど他のアイテムでも採用していて、その応用でジャンプスーツを作りました。ハイウエストなので着た時のバランスもきれいです」

【2021SS】

ドレス ¥126,000

甘すぎないレースで成立する構築的デザイン

「四角い生地だけで作ったドレスがいいなと思い、四角いレースのパネルを重ねて構成した新しい形です。以前からレースをやってみたいとは思っていましたが、花柄などはイメージが合わず、ようやく見つけたのが、幾何学模様のグラフィカルな柄です。いろいろと角度を変えながら作り、どこを前にしてもはけるようにしました」

コート ¥106,000

メッシュ素材と袖のレイヤードがユニークなコート

「レイヤードされた袖がポイントのコートで、パターンの画面を見てるうちに思いついた、お気に入りのディテール。メッシュ地は、京都の経編屋さんのバッグやインテリア用の生地を使いました。メッシュ素材に樹脂のような加工を施して、ちょっと硬い風合いになっているのが特徴です」

トップス ¥29,000

ボディにボディを描く、シュールなトロンプルユ

「コラージュした身体をプリントするのに今ハマっていて、プリーツのボディにボディモチーフのプリントをのせました。例えば、バックには背中のグラフィックがプリントされ、他にも、胸、足があります。足は男性の足ということもあり、ややシュール過ぎたのか、あまりウケがよくなかったですね(笑)」

ドレス ¥162,000

秘蔵の素材が映える主役級の“魅せる”ドレス

「完全に素材から入りました。このチカチカした糸が一時期出回っていたようなのですが、もう生産できない、在庫があるだけで終わりのこの生地をどうしても使いたくて、ロングドレスを作ることにしました。これまでショーピースのようなものを作っていなかったので、売れる売れない関係なく、一個そういうものがコレクションの中にあると、アティチュードになるかなと思っています」

デザイナーインタビュー
「タイムレスなデザインとは、自分自身と向き合うことで生まれたオリジナリティ」

──自身の服の特徴を挙げるなら?

「立体的なシルエットの構築的な服だと、よく言われますが、自分としては、最初のとっかかりはそこまで洋服を作ろうと意識はしていないんです。単純に素材を触りながら、なんとなく漠然とこういうシェイプを作りたいというイメージから入って、それを最終的に人が身に着けるものにどこまで近づけていくかといった作業です。もちろん服だけど、服という定義をあまりしてないというか、服らしさという点では曖昧な着地を想定してます。ただ意味が分からなくなりすぎないように、トータルバランスは慎重に考えます」

──とすると、服作りの出発地点は素材でしょうか?

「そうですね。素材が好きなのでシーズンごとに素材見本を片っ端から見て触っています。その中から、毎回チャレンジしてみたい素材を決めて、どうやってそれをうまく活用できるかを考えます」

──実際に、生地メーカーに行って、素材を選ぶという作業?

「全然行かないですね(笑)。いわゆる生地好きというよりは、メーカーから送っていただいた生地見本を常に持ち歩き、ひたすら触って想像力を働かせるのが好きなんです。糸のことなどにかなり詳しい人はいますが、僕はあまり詳しくないし、むしろそのくらい軽いテンションのままのほうが先入観がなくフラットに生地と向き合えると思っています。逆にパターンはすごく好きで、好きだからこそやるのが気が重いんですけど。生地はカタログをめくるのと同じような感覚で、気軽にパラパラ見て触って、単純に形にしてみたいかどうかで決めています」

──そうやって直感で選んだ生地を生かしたアイテムで象徴的なのは?

「例えば2020AWシーズンは、麻と合皮のボンディングで、バイカージャケット風のアウターを作りました。麻と合皮という組み合わせがありそうでなかったのと、素材的に面白そうだと思ったのでくっつけて。立体的な袖をよく作るんですけど、それと組み合わせて、ごわつく素材のラフなかっこよさを生かしました。でも実際のセールスは、見た目が麻だから冬っぽく見えないということで難しかったんですが、別にかっこいいからいいじゃんって思っています(笑)」

──パターンが好きとのことですが、服を作る上で、大事にしている要素だと?

「学生時代からずっとパターンを自分で引いていて、コスト削減の意味でもありますがコレクションの7割以上は自分がパターンを引いたものです。ただ自分ではできそうもない構造を思いついた時には、信頼を置いているパタンナーさんたちに外注します。僕の場合、パタンナーさんとは違ってパターン作成ソフト(CAD)を一種のデザインツールとして捉えていて、画面上でまずは思うように線を描いてみることから始めます。日々製図画面と立体イメージを脳内で行き来しつつ、形にしてみたり試行錯誤しながら、パターンのボキャブラリーを増やしていく感じです。
初期の頃から数シーズン展開しているジャケットがありますが、ちょっとずつ修正改良しています。自分の作るものはトラディショナルな服ではないので、どんな素材が合っているのかが、まだ自分でもよくわからないんです」

──その服のパターンにどの素材が合っているかを模索していると?

「はい。正解が見えないから、コットンタフタだったり、コーデュロイだったり、何シーズンかいろんな素材をあてはめながらやってみた結果、この秋冬にビーバーで作ったら、自分の中である程度、マッチングが良かったという手応えがありました。今のところこれ以上やることはあんまりないかなと思ってます」

──そこまで突き詰めているジャケットですが、その形はどのように出来上がったんですか?

「建築的なアプローチで、ピエール・カルダンみたいに空間の中に人の身体を入れるようなものと、ボディを意識したものの、両方のある服がいいなと。西洋的なボディを考慮した服作りプラス、和服のような平面的な作り方、あるいは歴史衣装のような昔のものと近未来的なもの、みたいに古今東西のニュアンスを少しずつ含んだ、どこか普遍性のあるものが作りたいんです。解釈が一方向に偏ったものって僕には魅力的に見えなくて。一つの服の中でいろんな感覚が共存する、その中庸なバランスが好きで、自分の中では試行錯誤しながら作った代表作ができたと思っています」

──納得のいく好きな形って発明に近いというか、それこそ1シーズンで終わるようなものではないですよね。

「タイムレスなデザインができたらいいですよね。クロード・モンタナが好きなんですが、ヴィンテージのお店で彼の服を見かけて、それこそすごくタイムレスなデザインだと感じました。友人とタイムレスなデザインとは何かという話になって、それは結果として時代を超越したものでしかなくて、必要なのは確固たるオリジナリティじゃないかみたいなことだったんですけど。
決して単にベーシックなものとかではなく、自分自身と向き合い続けてきた軌跡が作ったものというイメージです。僕も世の中のトレンドから距離を保ちながら、これまでしてきたことをどうアップデートさせるか、その形から次にどう発展させるか、そういうふうにデザインを展開していけたらと思っています」

──では、定番的なアイテムを継続しながら、シーズンごとのコレクション全体のイメージはどう変化をつけているのでしょうか?

「自分では変えようと思ってないんですけど、素材や色が変わったり、明確な女性像を立てていないので着用するモデルによってもまた違って見えたりするようです。でも、自分の中ではやっていることの本質は変わってないので、意識して変えているつもりはあまりないですね。
例えば、マントドレスは毎シーズン人気があって、体型を選ばないデザインで幅広い方に受け入れてもらっていて、いつの間にか定着して定番のようになっています。自分ではよくわからないまま、売れるから出し続けるみたいなアイテムもあれば、気に入ってるけどなかなか受け入れられないものもある(笑)」

──作りたいものとニーズとの間にギャップを感じてしまう?

「それこそ思い付きでやったような全く意図してないことが女性にはありがたがられたりします。作りたいものとニーズが一致すればもっとセールスは伸びると思いますが、一致しすぎてもそれはそれで退屈に思います。僕は男だし完全に女心がわかるわけではないので、変に女性に優しいデザインを心がけるよりは、今ぐらいの距離感をキープしているほうが女性に対して何か新しい提案ができるような気がしています。日本にいるウィメンズの男性デザイナーは大きく分けたら、女性に寄り添おうとしているか、理想の女性像追求系のどちらかだなと。僕はそのどちらでもないと思っていて、観察対象って言ったら語弊があるかもしれませんが、ある程度わからないままのほうがいいなと思っています」

──そんな思いを抱えている中でも、他に自分の中で納得できている、気に入っているアイテムは?

「ボディスーツのディティールをAWシーズンは取り入れていてボディスーツ型のサテンシャツやニットなどを出しました。結構気に入っていたんですけど、ボディスーツの難しさがあるのか、そこまで数は売れなかったです。おしゃれな人たちはけっこう喜んでくれますが、一般的にはちょっと抵抗があるようです」

──どうしてボディスーツに着目をしたのでしょうか?

「軍モノか何かの古着でパチンとスナップボタンで留めるアウターを見て、ボディスーツと合体させたジャケットを作ったことがありました。それが結構評判がよかったので、以来ボディスーツを続けて作るようにしたんです。最初はボディスーツの可愛さや股下で留める感じとか、僕は男なので全く分からなかったんですが、その股下のデザインを女の人が可愛いっていうのが不思議だったので、とりあえず続けてみようと思って(笑)」

──まさに観察ですね。なぜ女性はこれを可愛いと言うのか……。

「興味はすごくあります」

──ところで、服作りは素材から閃くとのことですが、20AWではレオナルド・ダ・ヴィンチ的なモチーフ使いが印象的でした。何かそこには意図があったのでしょうか?

「どちらかというとそういったテーマみたいなものはいつもないんです。生地を選ぶときに統一感を出したいので、その時のテンションが明るいか暗いか、国で言ったらあの時行った場所の、あの感じだなとか、漠然とそういうムードだけは最初にあります。秋冬はその直前に行ったウラジオストクのちょっと暗いムードで作りたいと思って。クールでちょっとダークかつミステリアスで不穏な感じをイメージしました。ダヴィンチに関しては本当に思い付きで、ふとあの図形を見て、円と四角でカバンにできそうだなと作ってみたら、世界観が意外とマッチしたんです。コレクション制作は最初から着地を考えすぎずに、予期せぬいい偶然が起きるような余白を残すことを意識しています」

──引き続きダヴィンチのモチーフは継続してますが、21SSはどのようなムードでしたか?

「春夏を作る時はちょうどコロナ禍ということもあって、窮屈さから逆にただ思いついたことを思いっきりやろうと解放的になりました。おうち服の提案も嫌だったし、マスクを作るのもなんか違う。もっと自分なりの捉え方があるんじゃないかと。みんな同じようなことを考えるけど、同じようなことをやるのは違うと思って」

──でも発信者として、意識せざるを得ない部分はあったと。

「僕はファッションデザイナーというのは選ばれた職業だと自負していて、世の中に元気がなくなっているからこそ何かポジティブなものを発信する必要があるし、新しい提案や自分たちにしかできないことをやろう、他の人にできないものを作らなければというふうに考えました。
また、シェイプと向き合いデザイン自体に命を懸けてきた、古典的なファッションデザイナー像に憧れてきたので、自分もそこは守りたいという思いがあります。ウケれば、流行れば何でもいいというのはちょっと違う。ここ最近は、デザイン自体にもはや価値がないとか、デザイナーとしての在り方自体を問われるような意見も聞こえてきますが、それって甘いものは体に悪いからケーキ屋さんなんていらないって言われてるのと同じじゃんって思ってしまうというか。
なのにいざ自分を省みたら、秋冬シーズンはデザイン的には継続のものが多く、全体として見たときにあまり面白くない感じがして、自分自身でも予想できないものに果敢にチャレンジしなきゃダメだという思いが強まりました」

──具体的に生まれた新しいチャレンジは?

「デザインをピックアップするなら、シグネチャー的なマントのディティールをティアードドレスに取り入れて、背中にボリュームがでるようにした服がありますが、これは人気がありました……」

──自己評価のほうは?

「こういうのもありかな、くらいですね(笑)」

──なかなか自分に厳しい、辛口ですね(笑)。

「世の中にちょっとありそうなもの、いわゆる可愛いとされているものを、自分なりに解釈しているところがいいんじゃないのかなっていうのはわかります」

──理解はしてるけど、そこをガッツリ攻めると、自分らしくないみたいなせめぎ合いですか?

「そうなんですよね。そうやって振り切れるデザイナーもいるとは思いますが、僕は葛藤やせめぎ合いの中にこそ何か手がかりがあると思っていて。21SSで、定番ジャケットに代わる新たなマスターピースをいろいろ模索していて、ソファのひじ掛けのようなイメージの袖を作ってみましたが、自分的にはそこそこブラッシュアップできたかなと思います」

──確かに和っぽくもあれば洋っぽくもある。新しいのか古いのか、なんとも言えない雰囲気です。

「なんかうまくそういう不思議な感じになったなと思って。古着屋でたまたま変わったものに出会ったような感覚。僕は民芸やバウハウスとか、ちょっと野暮ったいデザインが好きで、それもあってバウハウスジャケットと名付けましたが、ちょっと背負いすぎたなと思ってます(笑)」

──大野さんの服を見ていると、構造自体はシンプルだけど、そこに至るアイデアや組み合わせが新鮮な気がします。

「どんなものでもなるべくシンプルなほうが好きで、一つ一つを口うるさい感じにしたくないので、削ぐところは削いで。ジャケットも袖にデザインを取り入れているので、その分ノーカラーで軽い感じにしました。またデザインが冒険している分、素材自体は見たことのある感じがいいなとか」

──ジャケットだと、いわゆるテーラードに則ることを重視する考え方もありますよね?

「ジャケットも本格的な仕立てはちょっと服的に重苦しいのではないかと感じていて。オーセンティックな服を目指すのではなく、まさにプロダクトとしての軽やかなジャケットというアプローチですね。そのほうが枠にはまらず着回しできるように思うし、別にテーラリングで勝負しようとはしていないので」

──自分は自分という確固たる軸があるんですね。

「僕が作るのは洋服というよりは、ウェアラブルなプロダクトです。ユニークな姿形をしているけれど、パーソナリティを決めつけず、誰に対してもオープンでかつ美しいものを目指しています」

YOHEI OHNO(ヨウヘイ オオノ)
TEL/03-5760-6039
yoheiohno.com/

【連載】これからの服作りを探る、デザイナー訪問記

Photos:Anna Miyoshi(Item, Portrait) Interview & Text:Masumi Sasaki Edit:Chiho Inoue

Profile

大野陽平Yohei Ohno 愛知県小牧市出身。文化服装学院に入学後。文化ファッション大学院大学を経て、英ノッティンガム・トレント大学に留学。帰国後の2014年12月に「YOHEI OHNO」を立ち上げる。2015AWコレクションにてデビュー。2017年TOKYO FASHION AWARD受賞、2019年インターナショナル・ウールマーク・プライズのファイナリストに選出。
佐々木真純Masumi Sasaki フリーランス・エディター、クリエイティブ・ディレクター。『流行通信』編集部に在籍した後、創刊メンバーとして『Numero TOKYO』に参加。ファッション、アート、音楽、映画、サブカルなど幅広いコンテンツ、企画を手がけ、2019年に独立。現在も「東信のフラワーアート」の編集を担当するほか、エディトリアルからカタログ、広告、Web、SNSまで幅広く活動する、なんでも屋。特技は“カラオケ”。自宅エクササイズ器具には目がない。

Magazine

DECEMBER 2024 N°182

2024.10.28 発売

Gift of Giving

ギフトの悦び

オンライン書店で購入する