“フェムテック”で知る、 もっと気持ちいいカラダ
注目の『フェムテック』※①で暮らしはどう変わる? 産婦人科医師の宋美玄、フェムテック製品を扱う『フェルマータ』の杉本亜美奈、女性のあり方について発信するアイドル和田彩花が徹底トーク!(『ヌメロ・トウキョウ(Numero TOKYO)』2020年12月号より抜粋)
宋美玄(以下、宋):「まず『フェムテック』の定義ってどういうことでしょう?」
杉本亜美奈(以下、杉):「実は『フェムテック』に決まった定義はありません。女性のためのプロダクトとテクノロジーを指すことが多いのですが、それよりも日本ではムーブメントを表す言葉になりつつあります」
宋:「ムーブメントを含め『フェムテック』なんですね。もちろん、この流れは歓迎すべきだけど、前提として、医療とフェムテックは違うという認識が必要です。医療費が高くてフェムテックで手軽に解決したい国もあれば、日本のように医療費が安い国もあります。医療では治療をして、フェムテックでケアをする。そこの線引きをしておかないと、病気を見逃すことにもなりかねません」
最新の生理グッズで快適に
和田彩花:「身近な生理についてお伺いします。私自身、ずっと生理痛が重くて、それが当たり前になっていたので、母親にも話せずにいたんです。でもここ数年で女性のあり方が多様になっていることを知り、生理についてもたくさん選択肢があるとわかったので、少しずつ実践しているところです」
宋:「日本では、女性が生理について語ることははしたないことだとされてきた歴史がありますからね」
和:「ステージでパフォーマンスするとき、ナプキンだけでは不安だったんですが、勇気を出してタンポンを試したら不安が消えたんです。それで調べてみたら、生理でも快適に過ごせるものがあると知って」
宋:「生理は、経血量、腹痛、頭痛や腰の痛み、下痢、腸の症状、生理前後でも排卵痛があったりと、いろんな症状があります。それ以外にもメンタルの不調、ナプキンによるかぶれや不快感など、7、8割の人がなんらかの不調を抱えているのですが、病院での治療のほかに、アメニティでも軽減できるものがあります」
杉:「いま注目されているのは月経カップですね。フェルマータで扱っているのは、韓国のヘルスケアブランド『イブ』※②のものですが、女性の体のことを考えた製品づくりをしていて。環境にも優しく作られているので、安心してお客さまにすすめることができます」
宋:「うちのクリニックでは、日本製の『ローズカップ』※③を扱っています。海外ブランドが多い月経カップのなかでは珍しく国産です。人によって膣や骨盤の大きさが異なるけれど、日本人に合うサイズ感なんです。イブの月経カップも韓国生まれだからサイズが合いそう。容量は?」
杉:「ミニで20㎖です」
宋:「ローズカップは18㎖。半日は持ちますね。よく月経カップの記事が出ると、『私は全然足りない!』とコメントが付くのですが、18㎖の月経カップで半日持たない人は、病院に行ってください! 経血量が多すぎる方はお医者さんに相談ですよ。その点でも、月経カップなら自分の量を把握することができますね」
杉:「他には、経血を吸収して洗って繰り返し使える『生理パンツ』※④と『デリケートゾーン専用ソープ』※⑤も人気です」
宋:「夏になると痒みを訴えて来院する患者さんが増えるんですよ。ネットで検索すると『カンジダ』が出てくるので、患者さんもそう思い込んでいるけれど、約半分の人は蒸れてかぶれているだけだったり。それは専用ソープやアンダーヘアのお手入れで軽減できますよね」
和:「専用ソープも、最初はお店に行って商品の前に立つことすら恥ずかしかったけど、それを乗り越えて使ってみたら、すごく快適です。周囲にもおすすめしているんですが、恥ずかしいのかあまり乗り気になってくれなくて」
令和でも、性の話はタブー?
宋:「日本は性のタブー感がまだ強いですよね。特にアイドルは、性に触れちゃいけない圧力がありそう」
和:「性に関する話はパートナーの存在を連想させますから、こういう話をする方は周りにいません。今は、グループを卒業して一人で活動していますし、既成の『女らしさ』とは戦っていきたいので、どんどん発信していきたいと思っています」
宋:「男の子にはおちんちんが付いてるけど、女の子には何も付いてないと教える親御さんもいるそうです。子宮という赤ちゃんのお家があって、そこにつながる道が膣というんだよと教えるだけで、生理やセックス、出産についての説明ができるのに」
杉:「和田さんが自分の体をケアするようになったのはいつから?」
和:「きっかけは脱毛でした(笑)。私は美術を学んでいるので、性的な作品も見慣れていたし、大学では、ろくでなし子さんの作品について議論するような授業もあったんですが、自分の体については葛藤があって。でも、思い切ってⅤⅠO脱毛やデリケートゾーンのケアをしてみたらすごく快適になったんです。そこから、自分の性にも向き合うことができて、クリニックにも通うようになりました」
杉:「少しの勇気と慣れですよね。うちのスタッフでも、抵抗のある人もいればない人もいて、でも徐々に慣れて普通に話せるようになりました。だけど考えてみれば、日本って本来は性にオープンな国でしたよね」
宋:「性をタブー視し始めたのは、明治期に西洋から禁欲の文化が入ってきてから。日本人女性は慎ましいようにいわれますが、そんなに歴史は古くないんです」
杉:「日本は心理的なハードルも高いですが、法規制の面でもハードルがあります。今は使い捨ての生理用ナプキンが主流ですが、ナプキンが1961年に日本に入ってくるまで、脱脂綿を使っていました。その後、ナプキンが市場を席巻したんですが、そこから60年近く大きな規制改革は行われず、生理用品といえば使い捨てナプキン一択。だから、海外の優秀なプロダクトを輸入しようとしても、費用と時間がかります」
宋:「最近では、やっとテレビでもセクシュアルヘルスが取り上げられるようになりましたが、欧米に比べると、遅いですよね。先ほどのイブは韓国生まれでしたが、韓国は?」
杉:「韓国も男性優位の社会ですが、日本よりも進んでいる印象。日本でもさらに大きなブームになったら政府が耳を貸してくれるようになるだろうし、欧米を追い越してものすごいムーブメントになる可能性はあります」
自分のために自分の体を知る
(ここで編集Kがいきなり質問!『実はパートナーから、セックスの感度を上げるために『膣トレ』※⑥をしてはどうかと言われまして……』)
宋:「ええー‼ 少し前に『締まりのいい膣で相手を虜にしよう』なんて記事が出てましたが、なんでそんなことまで?!膣トレではよく『骨盤底筋を鍛える』といいますが、皆さんが鍛えているのは恥骨直腸筋という、骨盤底筋群の中でも一番浅い筋肉です。これは尿漏れには効果があるけれど、セックスの感度が上がる効果はありません!」
杉:「プロダクトでは『エルビートレイナー』※⑦という、デバイスに繋いで画面を見ながらゲーム感覚で膣トレができるものはありますよ」
宋:「骨盤底筋群全体を鍛えるなら、フランス発の『ガスケアプローチ』※⑧という運動もあります。男性が骨盤底筋を鍛えれば、精子がよく飛ぶといわれているので、どうせなら、みんなで鍛えたらいいのに」
杉:「セックスの話でいうと『ライオネス』※⑨というアイテムがあります。自分の気持ちいいポイントを把握できるんです。セックスに限らず自分の体を知りたい人にもにおすすめです」
宋:「自分の体に快楽を学習させるためのテクノロジーなんですね」
杉:「計測してデータを取るデバイスは本当に進化しています。世界初の陣痛モニタリングデバイス『ブルームライフ』※⑩は、コロナ禍で気軽に病院に行けないアメリカで、医療機器として申請する動きがあります」
宋:「これが普及すると、切迫早産での入院が減りそう」
杉:「『ケグ』※⑪はおりものの質を測って排卵時期を探ります」
宋:「避妊に使わないで! と言いたいけれど、これも面白いですね」
杉:「気軽に自分の排卵時期がわかるようになったら、妊娠への意識が変わってくるかもしれません」
宋:「リプロダクティブヘルス(=性と生殖に関する健康)について、前向きに取り組めるかもしれませんね。日本はまだピルへの抵抗感も見られます。ピルは避妊薬ではなく、生理を軽くしたり、期間を調整したりすることができる女性ホルモンの錠剤です。不妊や副作用が怖いといわれますが、卵巣を休ませることで不妊の原因になり得る子宮内膜症の予防もできるんです。将来的に妊娠を希望する方こそ、ピルについて真剣に考えてほしいですね」
和:「今は自分の意思で妊娠の時期を選べる世の中ですが、それでも周りを見ると『自然に任せる。好きな人の子どもならいつでもいい』と考える人が多くて。妊娠、出産の時期をある程度コントロールできたら、人生がもっと豊かになるのでは」
宋:「欲しいときに授かるとは限らないけど、『自然』に振り回されるだけが人生じゃないですよね。生理だってそう。昔の人は子どもをたくさん産んでいたので、生理の回数は少なかったんです。この100年で女性の生理の回数が増えることで、子宮体癌、卵巣癌、子宮内膜症、不妊症など女性特有の病気も多くなりました。生理のトラブルで悩んでいる場合、ピルや『IUS』※⑫を使って生理をコントロールしたほうが、より健康的でQOLも高まると思いますよ」
和:「30代の友人とは、不妊治療の話題になることもあって。知人が卵子凍結で子どもを授かったので、そういう選択もあるんだと知ったけれど、出産年齢を考えると、仕事と育児は両立できるのか、社会のサポートは?と不安があります」
宋:「卵子凍結で妊娠するのはまだとても難しくて、費用も高いのが実情。妊活プランも含めて、皆さんがもっと気軽に婦人科を訪れたり、フェムテックを使って自分のことを知ってくれたらと思いますね」
和:「知識を得ることも実践していくことも大切ですね。やってみないとわからないから。それに発信していくことも大切だと感じました」
杉:「ほかの国にどれだけ優秀なプロダクトがあっても、法律の規制や文化の違いで輸入できないことが多いんです。でも一人一人が声を上げたら、国を動かせるはず。みんなで物申していきましょう」
※①フェムテック
女性の健康課題を解決する技術やサービス、商品などのこと。2012年、生理管理アプリを開発した会社「クルー」が、投資家にプレゼンするために作った言葉。
※②イブ(EVE)
韓国の20代が創業したヘルスケアブランド。オーガニックのコンドームでも話題に。
※③ローズカップ
日本製の月経カップ。脱着する際に経血がこぼれないよう内羽が付いているのが特徴。
※④生理パンツ
一枚で穿いて、ナプキンのムレから解放されて。月経カップなどと併用しても。
※⑤ デリケートゾーン専用ソープ
通常の石鹸より低刺激で肌に優しく、気になる臭いや生理の不快感も低減してくれる。
※⑥膣トレ
セックスの感度アップやダイエットにも効果的と謳われる、骨盤底筋群のトレーニング。実際には尿漏れ予防には効果アリ。
※⑦エルビートレイナー
膣内に挿入し、内蔵センサーが専用スマホアプリと連動して、楽しく膣トレできる。⑧ガスケアプローチ
フランス人医師ベルナデット・ド・ガスケが提唱。医学とヨガが融合したエクササイズにより、骨盤底筋群に働きかける。
※⑨ライオネス
膣に挿入し、筋肉の収縮をスマホアプリで可視化するセルフプレジャーアイテム。
※⑩ブルームライフ
妊婦の腹部に貼り、筋肉の動きを測定して胎児と母体の健康状態をモニタリングできるデバイス。
※⑪ケグ
膣に入れ、頸管粘液(おりものの一部)を測定することで、排卵日と妊娠しやすいタイミングを予測するデバイス。
※⑫子宮内黄体ホルモン放出システム(IUS)
子宮内膜の増殖を抑える黄体ホルモンを子宮内に持続的に放出。過多月経・月経困難症治療や長期の避妊に使用。
産婦人科専門医・医学博士・FMF認定超音波医。2017年に「丸の内の森レディースクリニック」を開業。ベストセラー『女医が教える本当に気持ちのいいセックス』(ブックマン社)ほか著書多数。
アイドル。2019年6月にアンジュルムおよびハロー!プロジェクトを卒業。アイドル活動を続けるかたわら、大学院で学んだ美術や、ジェンダーやフェミニズムについて各メディアでの発信も行う。
女性のウェルネス課題の解決や支援事業、製品の販売を行う会社「フェルマータ」CEO。DrPH/公衆衛生博士。医療・ヘルスケアスタートアップへの政策アドバイスやマーケット参入のサポートが専門。
Photos:Koji Yamada Text:Miho Matsuda Edit:Naho Sasaki, Mariko Kimbara Cooperation:Sequence Miyashita Park