ピエール・アルディが語る、エルメス最新作「Black to Light」コレクション | Numero TOKYO
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ピエール・アルディが語る、エルメス最新作「Black to Light」コレクション

2001年よりエルメスのジュエリーを手がけ、ジュエリー界に革新をもたらすクリエイティブ・ディレクターのピエール・アルディ。「Black to Light」と名付けられた最新作ではハイジュエリー界のタブーともいえる黒を多用。ブラックストーンとピンクゴールドを組み合わせ、相反する要素を競演させた。時代の最先端を行く彼に、デザインの真髄について、これからのモードのあり方について語ってもらった。(『ヌメロ・トウキョウ(Numero TOKYO)』2020年10月号掲載)

©Alexis Armanet
©Alexis Armanet

エルメスの伝統と、黒の持つ革新性への思い

──ご自身が考えるエルメスのコードとは何でしょうか?
「モノ作りへの徹底した姿勢、高いクオリティへの飽くなき追求がエルメスの美学を支えています。そして馬はエルメスにとって欠かせない存在で、メゾンのエスプリでもあります」

──時にはそのコードを意図して壊すこともありますか?
「もちろん。壊すという表現が適当か分からないですが『今の時代でも意味をなすものなのか?』ということを絶えず問いかけながら取捨選択しています。例えばメゾンのルーツである馬具も、過去の産物のままではなく、形を変えて、それを現代的に昇華させようと努めています」

リング《ギャロップ》(PG×ブラックジェイド) ¥3,760,000(参考価格)/Hermès(エルメスジャポン 03-3569-3300) ©︎Maud Révy-Lonvis
リング《ギャロップ》(PG×ブラックジェイド) ¥3,760,000(参考価格)/Hermès(エルメスジャポン 03-3569-3300) ©︎Maud Révy-Lonvis

──「Black to Light」と題されたコレクションについてお聞かせください。
「黒をテーマにしたコレクションは長年やってみたかったことですが、黒はジュエリーの世界ではある意味タブーな色でもあります。ジュエリーは光り輝くものであり、黒はその対極にあるもの。またエルメスの色を考えるとき、黒はメゾンにとってアイコニックなカラーとはいえません。このタブーを超えたいという思いがありました。黒い背景に絵を描くことによって線が引き立つように、黒い貴石によってゴールドの輝きが引き立つようになりました」

──黒に対する個人的な思い出は?

「私がパリでモードに目覚めた80年代はヨウジヤマモト、コム・デ・ギャルソンが黒一色のコレクションを発表しセンセーションを巻き起こしていました。黒は既成の価値観への反抗を表す色でもあり、プリントや色を否定して黒だけで全てを表現しようとした時代でもありました」

ブローチ《シェーヌ・ダンクル・パンク》(PG×ブラックスピネル) ¥4,610,000(参考価格)/Hermès(エルメスジャポン) ©Maud Rémy-Lonvis
ブローチ《シェーヌ・ダンクル・パンク》(PG×ブラックスピネル) ¥4,610,000(参考価格)/Hermès(エルメスジャポン) ©Maud Rémy-Lonvis

ジュエリーデザインにおいて大切なこと

──どのジュエリーも着け心地にこだわったとか。

「ジュエリーは肌に直接触れるものであり、体と密接につながっているものです。デザインする上ではそこが出発点となります。あたかも体の一部と化すものを作るよう努めています。他者が見てそのジュエリーをどう思うのかという、言ってみれば社会的価値よりも、身に着ける人の満足を第一に考えています」

──具体的にはどのあたりでしょう?

「『ニロティカス・リュミエール』のネックレス(写真下)で説明すると、ブラックジェイドのパーツですが、それぞれサイズが違います。クロコダイルの鱗を見立てたというデザイン上の理由だけでなく、首の動きに合わせて大きさを変えました。首のよく動く部分には小さめのパーツを、首の動きにあまり影響しないフロント部分には大きめのパーツを配しています」

 ネックレス《ニロティカス・リュミエール》(PG×ブラックジェイド×ダイヤモンド) ¥10,310,000(参考価格)/Hermès(エルメスジャポン) ©Maud Rémy-Lonvis
ネックレス《ニロティカス・リュミエール》(PG×ブラックジェイド×ダイヤモンド) ¥10,310,000(参考価格)/Hermès(エルメスジャポン) ©Maud Rémy-Lonvis

──人間工学も取り入れてデザインされているのですね。

「人間の体のつくりを考えることはデザインの基本です。ただできたものはそれを感じさせないということも大切です。自分自身がデザインするときも、そのことを忘れるようにしています。ジュエリーを作るときは10分の1ミリ単位で体に沿うかどうか調整していきますが、最初にデザインを考えるときはそのことを考えないようにします。完璧なプロポーションを脳の一部にインプットしておき、いざデザインするときはそれから離れる。人間工学や解剖学のことだけを考えながらデザインしても面白いものは生まれません。クリエイションにおいて大切なことは、それらをいったん忘れることです」

──テクスチャーへのこだわりも感じます。

「ジュエラーにとって使える素材は限られたものです。ストーン、メタルなどの硬い素材をいかに柔らかくフェミニンに仕立てていくかを考えています」

──色、フォルム、テクスチャーのほかにデザイン上で大切な要素は?

「その3つはデザインの上で構成要素と言えますね。他にあるとすれば、ラインでしょうか。個人的に線描画が好きですし、私が仕事をするときはデッサンを描きます。自分がデッサンするオブジェはグラフィカルであるよう心がけています」

ブレスレット《ニロティカス》(PG×ブラックスピネル×ダイヤモンド) ¥14,230,000(参考価格)/Hermès(エルメスジャポン) ©︎Maud Révy-Lonvis
ブレスレット《ニロティカス》(PG×ブラックスピネル×ダイヤモンド) ¥14,230,000(参考価格)/Hermès(エルメスジャポン) ©︎Maud Révy-Lonvis

禅の世界に見出した美学

──日本がお好きだと聞きました。日本文化のどこに惹かれますか?

「余分なものを削ぎ落としたときに表れるシンプルさです。今回黒と光をテーマに制作する際、谷崎潤一郎の『陰翳礼讃』を読み返しました。削ぎ落とせるところまで削ぎ落とした先に残る美しさ、そこに美学の本質を見いだすところに惹かれます。もちろん日本の食べ物も大好きですが(笑)」

──コロナウイルス後変化したことはありますか。

「ロックダウンで家にいる時間が今まで以上に長く、その分、自由な時間が増えました。与えられた時間をいかに過ごすか、今まで忙しかったこともあり、そんなふうに考えたこともないということに気づきました。

──新たな時代に突入したともいえる今、モードが社会にできることは?

「モードは社会を反映する鏡でもあり、社会に果たす役割は大切です。と同時にモードは楽しさでもあると。服を買うときは時として論理的に思考しないものです。モードが持つ娯楽性もこんな時代だからこそ必要なのではないでしょうか」

銀座メゾンエルメスでの展示風景 ©Nakása&Partners
銀座メゾンエルメスでの展示風景 ©Nakása&Partners

「Black to Light」

ピエール・アルディの自由な発想により誕生した「Black to Light」コレクションが一堂に会するエキシヴィションを開催。心に響くコレクションをその目で確かめて。

会期/9月5日(土)〜9月13日(日)
会場/銀座メゾンエルメス
住所/東京都中央区銀座5-4-1 10階
www.hermes.com
※会場内の混雑状況により入場制限を行う場合あり

Interview&Text : Hiroyuki Morita Edit : Michie Mito

Profile

Pierre Hardyピエール・アルディ クリスチャン・ディオールでシューズデザインを担当したのち、1990年よりエルメスのシューズクリエイティブ・ディレクターに就任。レザーのラグジュアリースニーカーを制作し、グランメゾンのスニーカーブームの先駆けに。99年より自身のブランド「ピエール・アルディ」をスタート。2001年より、エルメスのジュエリーのクリエイティブ・ディレクターに就任。10年より、2年に一度ハイジュエリーコレクションを発表している。 ©Alexis Armanet

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