今をときめくファッションフォトグラフィー 【part 1】カオス編
ファッション写真は、言わばその時代を映す鏡。主に、ここ2、3年でファッション業界で活躍の場を一気に増やしている人気のフォトグラファーたちとともに、3つのトレンドジャンルをご紹介する。第一回は「カオス」編。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2021年1・2月合併号掲載)
CHAOS(カオス)
まるで現代の宗教画!? 共生する社会と希望
ここ数年のファッションフォトグラフィーのトレンドの中で最も顕著なのが、カオスな様子を表したもの。とにかくモデルの人数が多く、時には喧嘩を繰り広げているようなシーンが多数。このトレンドの筆頭となるヒューゴ・コンテは、怒鳴っていたり殴りかかろうとしたり、表情やしぐさまでもカオティックな作品を撮っている。人間だけではなく動物が登場するものも多く、これからこの社会でどのように共生していけばよいのか問うような、まるでキリストの審判にかけられた宗教画!? を彷彿とさせるような雰囲気も(実際に、りんごや蛇などキリスト教のモチーフを持っている写真もある)。とにかくインパクトがあるので、何度も見返したくなる中毒性がある。Hugo Comte(ヒューゴ・コンテ)
今最もファッション業界で引っ張りだこのフォトグラファー。彼の写真はとても特徴的で、カオスかつレトロ、さらにフューチャーリスティックなヴァーチャルゲームのようなテイストのものがあるが、いずれもシュールな雰囲気を醸している。スティーヴン・マイゼルにかなり影響を受けており、90年代の雰囲気も強い。モデルの一瞬一瞬の動きを大切にしていて、動画をモーションで切り取ったような作風でもある。
Steven Meisel(スティーヴン・マイゼル)
80年代後半から活躍しているフォトグラファーで、カオストレンドの先駆者とも言える。モデル達のダイナミックな動きで、インパクトある写真が多く、特にモスキーノではジェレミー・スコットがアーティスティック・ディレクターに就任以来、ファニーでユーモア溢れるルックに合わせて、インテンスであったりアイロニーの効いたキャンペーンを撮っている。
Glen Luchford(グレン・ルチフォード)
まるで映画のシーンをキャプチャーしたような瞬間を捉えるフォトグラファー。2015年からはグッチでアーティスティック・ディレクターのアレッサンドロ・ミケーレとともにキャンペーンを撮影している。特に2019年クルーズコレクションでは、旧約聖書の中の『ノアの方舟』をベースに、動物と人間が共存する世界を描き、ブランドのシグネチャーでもある自然界の魅力を物語った。
Johnny Dufort(ジョニー・デュフォート)
若手フォトグラファーの中で今最も期待されている一人。不思議なポージングと度々タッグを組んでいるスタイリストのロッタ・ヴォルコヴァによるおかしなスタイリングが特徴的。予定調和なものではなく自由気ままに撮影しているような、シュールレアリスティックな世界観を生み出している。
Till Janz(ティル・ジャンツ)
フォトグラファー兼動画ディレクターの一人である彼の作品には、UXデザイナーのバックグラウンドが生きている。映画館でふざける若者たちやオフィス会議での熱血した争いに紛れるモデルなど、現実社会に起きそうなシチュエーションにクスッと笑える場面を撮っている。また彼の作風は、ヴァーチャル・リアリスティックなものも多い。
Edit & Text:Midori Oiwa