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松尾貴史が選ぶ今月の映画 『THE GUILTY/ギルティ』

© 2018 NORDISK FILM PRODUCTION A/S
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緊急通報指令室のオペレーターであるアスガー・ホルム(ヤコブ・セーダーグレン)は、誘拐された女性からの通報を受ける。電話から聞こえる声と音だけを手がかりに事件を解決することはできるのか......ハリウッドでのリメイクも決定した話題作『THE GUILTY/ギルティ』の見どころを松尾貴史が語る。(「ヌメロ・トウキョウ」2019年3月号掲載)

新鮮でありながら古典的な良さも

この作品は、ほとんど、いや全部が、同じ建物の中の映像しかありません。ずっと一人の男性の仕事をしている様子が映ります。時たま、職場の仲間が映り込み、二言三言会話を交わしますが、大半は一人のお兄さんが映り続けています。

彼は警官ですが、ある出来事で現場を退き、日本でいうところの110番のオペレーターが持ち場になっているようです。管区内のあちらこちらから、SOSが飛び込んできて、そのトラブルの内容に応じて警察官や警察車両を手配する段取りをします。

全編通じて、オペレーションルームからカメラが屋外に出ることはなく、何が起きているかは電話の向こうの人の声や雑音から知ったり想像したりということになります。

私は昔から、映画の説明台詞やテレビ番組などでの過剰な字幕に辟易としているのですが、この作品の「解りたいなら見てろ。知りたいなら集中しろ」という姿勢は新鮮であり、頼もしくも感じるのです。

その少ない情報量ゆえのトラップ的な要素もあるのですが、観客の想像力に敬意を払ったこの演出には頭が下がります。そして、下衆な見方をすると、この作品は満足度に比べると相当な低予算で作られているのではないでしょうか。役者はメインが一人と、傍らに映る人が6、7人、そして電話の向こうの声ぐらいのものです。セットなのかロケーションなのかはわかりませんが、電話を受ける部屋や廊下があればいいので、これも安上がりです。

昨年、『カメラを止めるな!』という予算300万円の作品が大ヒットして数十億円の興行収益を出したと話題になりましたし、20年ほど前でしょうか、『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』という低予算(6万ドルほど)映画がありました。低予算でもアイデアと工夫次第で面白い作品が撮れることの証左なのでしょう。

この作品はデンマークの映像作品なのですが、私には落語の名作のように感じられるのです。笑える箇所があるわけではないので、講談に近いかもしれません。演者が一人いて、その周囲の状況はセットや衣装が変わるわけではないのに観客は想像力だけを使って物語の世界に没入できるという、映像の話術を堪能しているわけです。映画好きにもいろいろおられますので、「いろんな場面が見られないならつまらない」と言う感想も出るのでしょうね。しかし、脳内の「映像」は、想像力次第で無限に広がります。

役者は落語や講談のように何人をも演じ分けるわけではないのですが、電話の向こうの人々のもたらす情報や漏れ聞こえてくる音声に、否が応でも想像力を発揮することになるのです。変わり種、話の種としても押さえておきたい作品です。80分台で程よい長さ、騙されたと思ってご覧ください。

『THE GUILTY/ギルティ』

監督・脚本/グスタフ・モーラー
出演/ヤコブ・セーダーグレン
URL/https://guilty-movie.jp/
2019年2月22日(金)より、新宿武蔵野館/ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開

© 2018 NORDISK FILM PRODUCTION A/S

Text:Takashi Matsuo Edit:Sayaka Ito

Profile

松尾貴史(Takashi Matsuo)1960年、神戸市生まれ。TV、ラジオ、映画、舞台、落語、「季刊25時」編集委員、創作折り紙「折り顏」、カレー店の運営など幅広い。2月22日に新著『違和感のススメ』 刊行予定。

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