あの人がナビゲートする、知る喜び vol.7 世界の映画祭 | Numero TOKYO
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あの人がナビゲートする、知る喜び vol.7 世界の映画祭

「それ、いいね!」という言葉が飛び出すのは、知らないことを知ったとき。その道のプロでもファンとしてでも、時代の空気感を敏感に、意識的にキャッチしている人たちに聞いた、知ってうれしい深堀りカルチャーあれこれ。vol.7は、映画会社BITTERS ENDのバイヤー・伊藤さやかが「世界の映画祭」を紹介。(『ヌメロ・トウキョウ(Numero TOKYO)』2019年12月号掲載)

Photo:Aflo
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未知なる作品や映画愛に触れ、胸躍る祭典

「映画祭では、セラー(売り手)とのミーティングや情報収集をしながら、朝から晩まで映画を観ます。1週間強の滞在で30 ~45本ぐらい。世界で最も早く新作に触れられるのが何よりエキサイティングですし、自分がいいと思った映画を日本の皆さんに届けることができるのは、やっぱりワクワクします。買付の決め手は『作家性と商業性』という上司からの教えを胸に、物語やその描かれ方に新しさや特異性があるか、心を動かされる何かがあるかどうかで評価しますが、頑張って最後まで観たのに『?』なこともあるし、砂金をすくうような作業ですね。映画祭は企画・製作・売買、そのためのネットワーキングといったビジネスの場であると同時に、多様な生きざまや感情、新しい考えと出会える場所。映画は社会の鏡でもあるので、厳しい世界の現実を目の当たりにして打ちのめされることも多々。仕事をしながら、自分の生き方についてや、幸せって何だろう? などと考えている瞬間も多いです(笑)」
『パラサイト 半地下の家族』2020年1月公開 ⓒ 2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED
『パラサイト 半地下の家族』2020年1月公開 ⓒ 2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED

カンヌ国際映画祭(フランス)

業界一影響力がある祭典。スターがレッドカーペットを闊歩する華やかな一面と、マーケットとしての一面がある。夜の公式上映では正装が必須などルールも厳格で、コンペ部門は作品完成前に買い手がつく「プリバイ」が約半数。今年は審査委員長のアレハンドロ・イニャリトゥを筆頭に、ヨルゴス・ランティモス、パヴェウ・パヴリコフスキなど監督がメインの審査委員団(写真)。例年社会派もしくはアート色の強い作品の受賞が多い中、あらゆる要素を併せ持つ圧倒的なエンタメ作である『パラサイト 半地下の家族』がパルムドールを受賞し、カンヌ中が湧くのを肌で感じました。私も仕事を忘れて大興奮!

Photo:Aflo
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『ジョジョ・ラビット』2020年1月17日公開 ©2019 Twentieth Century Fox&TSG Entertainment
『ジョジョ・ラビット』2020年1月17日公開 ©2019 Twentieth Century Fox&TSG Entertainment

トロント国際映画祭(カナダ)

バイヤーにとってはカンヌ、ベルリンと並ぶ大事なマーケットで、北米最大の都市型映画祭。一般市民にも開かれ、ボランティアが生き生きと案内してくれる。どの会場も徒歩圏内で雰囲気も良く、上映作品は大作からカルトなアート映画まで幅広い。賞は観客の投票によって選ばれる「観客賞」のみで、受賞した作品が毎年アカデミー賞の本選を賑わせているので、オスカー前哨戦としても知られています。18年『グリーンブック』、17年『スリー・ビルボード』、16年『ラ・ラ・ランド』、今年は『ジョジョ・ラビット』が受賞。

Photo:Aflo
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『アス』全国公開中 ©2018 UNIVERSAL STUDIOS
『アス』全国公開中 ©2018 UNIVERSAL STUDIOS

SXSW(USA)

音楽祭として始まり、その後、映画、インタラクティブ部門が増設され複合的なフェスになったSXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)。アメリカのインディペンデント映画のお披露目の場としてはサンダンスに次いで注目されている。今年はジョーダン・ピール監督の新作『アス』、昨年はエミリー・ブラント主演のホラー『クワイエット・プレイス』が初上映され話題沸騰。ドラマシリーズ部門も(写真は「ゲーム・オブ・スローンズ」の催し物)。テキサス州・オースティンの町のバイブスが最高な上に、イベントも豊富でとっても楽しい!

ベルリン国際映画祭(ドイツ)

カンヌ、ベネチアと並ぶ世界三大映画祭のひとつ。市民にも開かれていて、かつマーケットとしても機能。社会派作品が多い。最優秀作品は金熊賞。18年フォーラム部門・第1回作品賞、スペシャル・メンション&国際映画批評家連盟賞を受賞したフー・ボー監督の長編デビュー作にして遺作となった『象は静かに座っている』が11月2日に公開。

ベネチア国際映画祭(イタリア)

世界最古の映画祭。ベネチア国際アートフェスティバルの映画部門としてスタートした歴史があり、マーケットとしての機能はほぼないが、近年『シェイプ・オブ・ウォーター』『ROMA』『ジョーカー』と、トロントに先駆けてアカデミー賞を賑わす作品がプレミア上映されて最高賞を受賞するなど、バランスよく話題性も集めるプログラミングに定評あり。最高賞は金獅子賞。⦆

テルライド映画祭(USA)

バリー・ジェンキンスとブラピの出会いの場所。初上映された『ムーンライト』が評判を呼び、近年テルライドで北米プレミア、その後トロントで上映されて盛り上がる、というオスカー前哨戦の流れができつつあり、山奥の小さい映画祭ながらますますその存在感を増している。上映作品が当日に発表されるイベント感もすごい!

トライベッカ映画祭(USA)

9.11アメリカ同時多発テロからの復興を目的に、ロバート・デ・ニーロが発起人となって始まった映画祭。

釜山国際映画祭(韓国)

アジア作品にフォーカスし、積極的に実力派の若手をサポートしているアジア最大の映画祭。企画マーケットなどもある。

サンダンス映画祭(USA)

スキーリゾートで有名な山奥にファンが集う。米・独立系作品にとって最も重要なお披露目の場で、評価は重要視される。

サンセバスチャンやロカルノなど重要とされる国際映画祭は他にもあり、国内では東京国際映画祭や東京フィルメックス映画祭、山形ドキュメンタリー映画祭などの国際映画祭や、フランス映画祭、イタリア映画祭など国に特化したものなど、世界各地の映画に触れられるさまざまなイベントがある。

あの人がナビゲートする、知る喜び

Illustration:Kaoll Edit:Chiho Inoue, Sayaka Ito, Mariko Kimbara

Profile

伊藤さやかSayaka Ito 2012年に映画会社ビターズ・エンドに入社。宣伝として『海は燃えている』『マンチェスター・バイ・ザ・シー』『寝ても覚めても』などを担当。現在はアメリカ東海岸を拠点に買付業務を行う。いつか映画を作りたい。『象は静かに座っている』の音楽を手がけた中国のバンドHualun (ホァルン)にハマり中。トルコ映画『読まれなかった小説』もおすすめ。

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