Culture / Pantovisco's Column

パントビスコの不都合研究所 vol.7 ゲスト 矢部太郎

世の中に渦巻くありとあらゆる“不都合”な出来事や日常の些細な気づき、気になることなどをテーマに、人気クリエイターのパントビスコがゲストを迎えてゆる〜くトークを繰り広げる連載「パントビスコの不都合研究所」。久しぶりのゲストは、デビュー漫画『大家さんと僕』がベストセラーとなり、新しい才能を開花させた矢部太郎。クリエイター同士の初対談をお届けします。

パントビスコ「今日はお忙しいところありがとうございます。矢部さんとは3年前にイベントでご一緒させていただいた以来ですね。今日はよろしくお願いします」

矢部太郎「ご無沙汰しております。こちらこそよろしくお願いします!」

パントビスコ「まずはお互いの似顔絵を描くことになっていまして」

矢部太郎「似顔絵って難しいですよね。だいたい、描かれた本人は嫌がるじゃないですか」

パントビスコ「そうなんですよね。僕も苦手なんです。マスクを描いた方が難易度が下がりそうですね」

矢部太郎「じゃあ、マスクありで描きましょう。…完成しました!」

似顔絵、公開!

パントビスコ「ありがとうございます! お菓子のパッケージにありそうなキャラクターみたいです」

矢部太郎「目がぱっちりされているなぁと思って。おひげがマスクで隠れているのでどこかで似せにいかないと、とまつ毛を描きました。こちらは、肩に何か乗っていますね(笑)」

オチがないのが矢部作品の魅力

パントビスコ「今の矢部さんと、小さい頃の矢部さんをイメージして描きました。小さい頃といえば、『ぼくのお父さん』拝読しました。矢部さんにしか書けないような空気感があって、とても素敵な1冊でした。例えばお笑い芸人さんだと、何かネタをやるときやトークにもオチがありますよね。矢部さんのストーリーは、見る人にオチをお任せしているように感じました。ズコーッと拍子抜けするものから感動するものもあれば、ないものもあって、それも好きなんですよね」

『ぼくのお父さん』
『ぼくのお父さん』

矢部太郎「ありがとうございます。オチがないというのは芸人としてはマイナスの部分だと思うんですね。テレビ上では笑いがないわけですから(笑)。漫画上だと、そう受け取ってくださる方がいるというのは、助かるなぁと思います」

パントビスコ「特に、お母さまが矢部さんの髪を切っているシーンで、矢部さんの頭からカメラがパンアップして空を映すコマがあって。それが自分のなかでグッときました。そういう間合いというか、せかせかしていないというか。自分も見習わなきゃな、と思いました。僕はすぐに結論を急いでしまうので」

矢部太郎「逆に言えば、僕はパントビスコさんみたいに、きちんと一枚の絵のなかに起承転結がある構成は自分ではなかなか作れないと思うので、すごいなぁと思います。それと、ペースも」

パントビスコ「創作のペースは、毎日2-3枚ずつアップしていますね」

矢部太郎「それが本当にすごいと思います。僕は連載が一ヶ月で6ページとかなので。締め切りがないと何にもしてないですね。きっと、ご自分を律してやられているんだろうな、と」

パントビスコ「とんでもないです。毎日ルーチンを決めて、なんとか人と同じ生活を送るようにしています。生活の中に染み込ませないと、それこそ僕もやらなくなるので」

矢部太郎「自分で決めたことを守るって一番難しい気がします。僕はそういうのができないので…」

矢部太郎が感じる平和な“不都合”とは

パントビスコ「ありがとうございます。なんだかお互い褒め合ってるみたいですね(笑)今回の対談のテーマは“不都合”なのですが、矢部さんのスタンスからすると、相反するテーマなのかなと思ったんです」

矢部太郎「そうかもしれないです。考えたのが、最近面白そうなものが多すぎて人生足りないなと思って。映画とかドラマとか漫画とか、みんな面白いものをおすすめしてくれるじゃないですか。自分の残りの人生を考えたときに、『どうしよう、絶対全部観きれない』と思ってしまうんです。その不都合は無理やり思いつきました(笑)」

パントビスコ「ポジティブな不都合ですね。矢部さんは言葉やイラストで表現されたり、見せる側じゃないですか。そういう風にインプットもされるんですか?」

矢部太郎「インプットするために観るものもありますが、それとは全く別に自分の趣味で観たいもの、読みたいものがあるんですよね。パントビスコさんは追いついてますか?」

パントビスコ「僕はこの活動を始めて人の作品を取り入れる機会が少なくなりました。描いて出してを繰り返しすぎて、人の作品にゆっくり触れる機会がないので、バランスが悪いなと最近思ってます。なので、同じ不都合を感じていました。時間があればある分だけ、漫画も見たいし映画も観たい。そう思いますよね」

矢部太郎「大きい本屋さんに行くと、絶望するんですよ。こんなに本があるのに読めないのか、と。Netflixもカタログだけ見て、絶対に全部観れないと思って」

パントビスコ「今日はこれを観よう!って決められる人が羨ましいなと思います。決断力があって」

矢部太郎「考えているだけで1時間ぐらい経っちゃって。こんなことなら、どれか観始めておけばよかったって思うこともあります」

パントビスコ「わかります! 僕も同じです」

『ぼくのお父さん』
『ぼくのお父さん』

それぞれの創作の原動力

パントビスコ「今回の作品で、幼少期の矢部さんはお父さんの風変わりな生き方について、人と比べたり『こうだったらいいのに』という思いを当時感じていたと思いますが、ご自分で考えを改められるところが垣間見られて、とても素敵でした。決められたことってありますもんね。どうしても逃げられないこと……境遇とか、能力とか。自分の感じ方を変えて生活を良いものにするというのが、大事なことだと気付かされました」

矢部太郎「そうですね。今の自分につながっているなぁと思うところがありますし、自分の考え方だったり、ものを作ったりするのを楽しいと思えたりするのは、父からの財産だと思えます。あとは変な人がいて、変なことがいっぱいあるんだというのを、人生の早い段階で知れたというのもありますね(笑)。ある程度のことに対して受入態勢ができたのかも。不都合だけど、なんとかそれにこっちがフィットさせていくような生き方になっているかもしれません」

パントビスコ「ある意味英才教育を受けてきたとも言えますね。臨機応変に考え方を変えて、寄り添うという。お父さんは、あまりネガティブなことを言わないですもんね」

矢部太郎「普通の人は嫌だなと思うことも、面白いと受け取るタイプですね。そう考えると、僕は不都合や不満から作品を描こうとならないかもしれないです。あまり考えたことがなくて」

パントビスコ「僕は真逆なんですよ。愛と怒りを根源にしているので」

矢部太郎「愛と怒り…強い!(笑)」

パントビスコ「極端ですが、0か100かを皆さんに提示して、わかると共感してくださる方がいればという感じですね。矢部さんがテーマにしていらっしゃるのは、空気感。漢字一文字でいうと『凪』だと思うんです。『みんな見て見て!』というのではなくて」

『ぼくのお父さん』
『ぼくのお父さん』

矢部太郎「そうですね…。そういう凪から作っているかもしれないですね。芸人もエピソードトークとかあるじゃないですか。怒りを出発点に話される方が多いと思うんですよね。あんまりそういうのを考えたことがなくて、『こんなことがあって、こんなだったんです』って基本的にそういうものかもしれません。読んだり観たりするのは、パントビスコさんのキャラクターのサイコパスオもすごく好きなんですが、絶対僕は作れないと思います。自分では、めちゃくちゃ起伏のあるものを作ったと思っているんですよ。でも、よく『淡々とした日常が描かれていて』と言っていただくことが多くて。ドラマチックに書いたつもりなんですけど」

パントビスコ「いえ、すごくドラマチックですよ!」

矢部太郎「僕の元々の起伏がすごく弱いのかなって思います」

パントビスコ「でも、本の帯コメントを見てもわかるとおり、三者三様の感想ですよね。それぞれ受け取り方が違うのが面白いなと。話の結論みたいなものがないからかもしれないですね」

矢部太郎「僕は描きたくて描いているものに対して、読者の方がどう思うのかなっていう不安もあるので、そうやって皆さんがそれぞれ作品を受け取ってくださっているんだなと思えば、勝手に描いていいんだなってすごく励みになります」

パントビスコ「矢部さんはすごく穏やかな方ですが、怒ることってありますか?」

矢部太郎「基本的には、まだ起こっていないことに対して怒ったりするんですよね。自分で勝手に想像して、これは嫌な結果になるなぁって怒って。それが終わると、何事も起きなくて『さっきはあんなこと思っちゃってすみません』ってなります(笑)」

パントビスコ「被害者が自分しかいないですね。例えば、荷物を届けてもらうときに、今日の午前中に届く予定のものが『すみません明後日になります』と言われたときはどうしますか?」

矢部太郎「もう、しょうがないですよね。大変なのはすごくわかりますし」

パントビスコ「さすがです。自分の小ささを知りました」

矢部太郎「僕は結構人に迷惑をかけたりするので。遅刻したりするし、忘れ物したりするし。この間も仕事で必要なiPadを電車に忘れて、マネージャーさんが取りに行ってくれて。人にめちゃくちゃ迷惑をかけている、という負い目を感じているので、何かあってもしょうがないなって思っています」

パントビスコ「その分、矢部さんにのしかかっているんじゃないかなって心配です。自分がそのしょうがない部分を負えばいいかっていう」

矢部太郎「それはあります! ここで負の連鎖を断ち切ろうって思ったりします。この間もトンカツ屋さんで隣に座ったおじさんがなぜかすごく怒っていて、僕の傘がその方に当たっちゃって怒られたんですけど、ここで私が負の連鎖を止めようと思って止めました」

パントビスコ「それはなんと言ったんですか?」

矢部太郎「『あ、すみません〜申し訳ないです』って。傘が当たったのも僕が悪いんですけどね。でもそれを意識しないと、僕が店員さんとかその日会った他の人に当たったりする可能性あるじゃないですか。それを意識的にやめようとしました」

パントビスコ「みんなが矢部さんだったら、素晴らしい世界になっていたでしょうね」

矢部太郎「それはトンカツを食べて満たされて、余裕があっただけなのかもしれません(笑)。でも怒りの気持ちで描いたら、どういうものが描けるかなと興味があります」

パントビスコ「僕も矢部さんのようなスタンスで描いてみたいなと影響を受けました。上がったり下がったり、気持ちの乱気流がたまに発生するので」

矢部太郎「血圧が高いんですか?」

パントビスコ「血圧は低いんですが(笑)、強い思いを作品にぶつけたりとか、気分がいいときは優しい絵を描いたりと波があるので」

矢部太郎「なるほど、だからいろいろな作品があるんですね!」

パントビスコ「もし、矢部さんから不都合が出てこなかったときに言おうと思ったことが2つあって。一つは、人類って文明がこれだけ進化しても、雨に対する防御策だけが進化していないですよね。だから、徒歩でも全く雨に濡れない手段を考える人がいたら、ノーベル賞だと思います。もう一つは、冷めても美味しいファストフード店のポテトを考えた人がいたら、それもノーベル賞受賞だと思います」

矢部太郎「確かに、それも立派な不都合ですね(笑)」

絵本作家の「お父さん」とのちょっと変わった日常を描いた矢部太郎の最新刊。クスッと笑えて心温まるかと思えば、ほろっとさせられる場面も。何気ない毎日が愛おしくなる、宝石のようなエピソードが満載。

『ぼくのお父さん』
著者/矢部太郎
定価/¥1,265(税込)
仕様/A5判 128ページ
発行/新潮社

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Photos: Kouki Hayashi Edit & Text: Yukiko Shinto

Profile

矢部太郎Taro Yabe 1977年生まれ、東京都出身。芸人・マンガ家。1997年に「カラテカ」を結成。芸人としてだけでなく、舞台やドラマ、映画で俳優としても活躍。初めて描いた漫画『大家さんと僕』(2017年)で第22回手塚治虫文化賞短編賞を受賞。『大家さんと僕 これから』(19年)から2年ぶりの新刊『ぼくのお父さん』を刊行(すべて新潮社)。挿絵を担当した『星の王子さま』(ポプラ社)も発売中。 https://yabetaro.com/
パントビスコPantovisco Instagramで日々作品を発表する話題のマルチクリエイター。これまでに5冊の著書を出版し、現在は「パントビスコの不都合研究所」(Numero.jp)をはじめ雑誌やWebで7本の連載を行うほか、三越伊勢丹、花王、ソニーなどとの企業コラボやTV出演など、業種や媒体を問わず活躍の場を広げている。近著に『やさ村やさしの悩みを手放す108の言葉』(主婦の友社)。Instagram: @pantovisco

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