LA発のラグジュアリーアイウェアブランド、ジャック・マリー・マージュ(Jacques Marie Mage、以下JMM)が、2025年8月、日本初となるフラッグシップギャラリーを表参道にオープンした。あえて“ショップ”ではなく“ギャラリー”と呼ぶこの空間は、限定生産のアイウェアやレザーグッズ、ジュエリーなどが、日本の伝統文化に敬意を込めた設えの中に並ぶ唯一無二の場となっている。この表参道ギャラリーに込めた思い、そしてJMMの美学について、創業者兼クリエイティブ・ディレクターのジェローム・マージュに話を聞いた。

──まずは、JMMを創設した経緯についてお聞かせください。
「2013年から2014年頃のことですが、当時、ラグジュアリーというものに対してどこか疑わしさを感じていました。視点や思想が欠けているように思えたのです。特に、技術や伝統が失われつつある業界においては顕著でした。だからこそ、クラフトマンシップと創造性にフォーカスし、希少で歴史的背景を持つプロダクトを生み出し、強いストーリー性と意味を込めたものをつくることに可能性を見出したのです」
──ハイエンドなアイウエアやジュエリーを制作しようと思ったきっかけは何だったのでしょうか。
「JMMを始める前、いくつかのアイウェアプロジェクトにデザインコンサルタントとして関わっていたこともあり、その分野には自然と親しみがありました。また、日本でアイウェアを製造するというのは、その素晴らしい国を深く探求するための良い口実でもあったんです。私たちのアイウェアにはもともとジュエリーのような装飾性やディテールが多く取り入れられており、実際のジュエリーを作ることは、デザインの世界観の自然な延長でした」
──表参道ギャラリーで空間デザインにSIMPLICITYを起用したのはなぜですか。
「まず第一に、日本の建築事務所とコラボレーションしたいと考えていました。なかでも、緒方慎一郎氏率いるSIMPLICITYの仕事は特に印象的でした。彼らは店舗設計にとどまらず、住宅、レストラン、プロダクトなど多岐にわたるプロジェクトを手がけています。私たちは自分たちの空間を一般的な店舗とは捉えていません。むしろ、没入型の体験=JMMの『日本の家』にお招きするような空間にしたいと考えていたので、その意味で彼らは理想的なパートナーでした」


──「マザーシップ」を店舗のコンセプトにした理由は?
「私たちはこの東京のギャラリーを『マザーシップ』、あるいは『梵舩(ぼんせん)』と呼んでいます。というのも、そこをノアの箱舟のような存在として構想したからです。そこには、日本の歴史・伝統・クラフトマンシップが詰まっていて、それらを象徴するような貴重なアイテム、そしてもちろん現代の日本のクラフトマンシップを体現した私たちのコレクタブルなフレームも含まれています。つまりこのギャラリーは、日本という国と、その文化遺産への敬意を表すための空間なのです」
──表参道ギャラリーでは、枯山水の庭や日本の書家による作品、能面コレクションなど、日本文化の多様な側面が随所に取り入れられています。そこには、ご自身のセンスやライフスタイルも反映されているのでしょうか。
「もちろんです。SIMPLICITYとのデザインはパートナーシップによるもので、『好奇心』『クラフトマンシップ』『発見』というテーマを出発点にして会話を重ねてきました。最終的に完成した空間は、私の日本美術や伝統への嗜好を反映しつつ、同時に静けさと内省を促すような空間への共通した価値観も表現されています」


──どういった人に着用してもらいたいですか。
「JMMは、すべての人のためのブランドです。少なくとも『最高のものを求めるすべての人』に向けてつくっています。私は特定のターゲット層を想定してデザインしているわけではなく、むしろ自分自身のためにデザインしているようなものです」
──表参道で7店舗目ですが、全てのお店のコンセプトや様式美が異なると聞きました。他の国の旗艦店はどのような特徴があるのか気になります。また、次なる店舗はどこでしょうか。
「各ギャラリーは、その土地ならではのアートとクラフトの歴史を反映するようにデザインされています。パリ店のインスピレーションについて、ジャック・ガルシアが語った『インスピレーションは住所にある』という言葉の通りです。つまり、私たちはそれぞれの土地に根ざした文化や歴史、魅力からインスピレーションを得て、それをJMM独自のビジョンや美学と融合させ、その土地ならではの『表現』を形にしているのです。次のオープンは、アメリカのオースティンとニューヨークを予定しています」
──アイウェアやジュエリーをデザインする上で、大切にしていることを教えてください。
「『美しさ』です」
──ものづくりをする際、どのようにインスピレーションを得ていますか。
「日本の『匠』、アメリカ南西部の先住民アーティスト、フランスのサヴォアフェール(匠の技)など、どの国・地域にも素晴らしい職人文化があります。クラフトマンシップとは、地域や文化の価値観や物語を物理的に伝えるための技術であり、それを守り、広めることだと思っています。また、クラフトとはアナログ的な創造力の表現でもあります。デジタルや人工的なものにますます頼りがちな現代において、クラフトマンシップとは『人間性の保存』そのものだと感じています」
JMM 東京 表参道ギャラリー
住所/東京都渋谷区神宮前5-9-7
営業時間/11:00〜20:00
TEL/03-6427-9460
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