Culture / Post

勝手にデパート文化論[前編]/菊地成孔×伊藤俊治 対談連載 vol.6

デパートが生んだ文化的産物あれこれ
 
K「デパートは文化史的にいうと架空消費っていうね。その、買わないけど頭の中で買ったことになってるっていうバーチャル消費っていうのを最初に生んだわけ。それまでの消費っていうのはスゴイはっきりしていて。例えばアメリカなんかだと通販文化が先に発達して、アレコレ選んで、送ってもらって。要するにお金郵送したり、カードで払ったりするから、架空消費よりかははるかに実体消費なの。だけど、パッサージュがまず架空消費を準備して、デパートはそれをさらにパノラマ的に爆発的に広げたっていうね。要するに入り口フリーだから」
 
I「商店街に雨の日に濡れないように、ガラス天井かけたのがパサージュの始まりですけど、ショウウィンドウがずっと並んでて散歩しながらショッピングが楽しめる。イマジネーションの場なんですね。今もパリにはヴィヴィエンヌやヴェロ・ドダなど美しいパサージュが残っていますけど、そこを歩くのは本当に楽しい。こうしたパサージュ文化がデパートに繋がってゆく流れが体感できる」
 
K「さっきも言ったように、デパート建築は、教会建築なんかと同じで建築学の1ジャンルとして立派に成立しているから、パリ万博に投入された植物園の鉄骨とガラスの技法が建築に使われてるとかね。そういう考察や分類も徹底的に行われてるけど、一方、かなり雑多な集団がオープンエリアとしての密閉空間に閉じ込められるという文化でもあって、痴漢と万引きが最初に爆発的に増えた場所でもあるんですね、デパートって。僕の考えでは、電車での痴漢は単に女体目当てですけど、デパートのは違いますね。架空消費の高揚感が加味されている(笑)。19世紀末のデパートの中の万引きや痴漢の記録ってすごい面白いんですよね。男根にネッカチーフ巻いて(笑)、そのまま颯爽と出して歩いてた人がいるとか……(笑)っていうような記録がいっぱい残ってる。立教の北山晴一先生の「おしゃれの文化史」というのが、日本語で読めるデパート史の最も濃い本で、そこに詳細があるんですが」
 
I「おしゃれな露出狂だ(笑)」
 
K「架空消費と痴漢と万引きは、グランマガザンという空間が産んだものですよ。電車はむしろ痴漢よりも、行き先を告げるアナウンスを幻聴と思い込んでしまう、鉄っちゃん系の人々をオリジナル発生させた。市場というのは、あれは主婦が食材を買って帰るっていう非常に苛烈な日常の場であって、デパートっていうのそれをもう一気に退行させる力がある。まあなんか行動的に子どもっぽくなるんですよね。いま「多元宇宙」「可能世界」が流行ってますけど、根源はゲームにマルチエンディングなんかじゃなくてデパートじゃないかと思ってます僕は(笑)」
 
I「菊地さんはあんまり買わないんですよね? こうランブリングして見てウインドウショッピングする?」
 
K「そうですね。僕は女物の服見るのにやっぱデパート行きますよね。というか基本的に女物の服見るのが好きなんだけど、路面店に入れないでしょう? レディースのところをウロウロひとりでしてたらおかしなヤツですよね? だけど、デパートに女友達と行ったり、まあ一人でもいいけど、行って、ああミュウミュウの服、これはいいなって言って帰ってくるって簡単にできるんで。ノスタルジーとも強く結びついています。テレビに映ってる芸能人を初めて生身で見る瞬間って誰でもあると思うんだけど。僕はそれがデパートだったの。伊勢丹の地下に、当時ミルクスタンド、ホットドッグスタンドみたいなのがあって、そこで僕も家族とホットケーキみたいなものを食べていたら、そこに家族とともに座ったのがジェリー藤尾一家だったの(笑)。高度経済成長期の話ですよ。その瞬間は虚構と現実の、あの境がとれたっていうか、なんかもう霊的な状況っていうか。あのテレビで見てる人が隣でホットドッグ食って、子どもにそんなに食うなって怒ったりしてて(笑)。あれも多元宇宙だなあ」
 
I「新宿の高島屋は今どうなんですか?」
 
K「高島屋はかなり頑張ったんですよ。最初はアイマックス・シアターみたいなの入れたりしたんだけど。それから幾星霜。とにかく頑張れという(笑)。僕が結構象徴的だと思ったのは、ホームレスの人が高島屋で休むようになっちゃって。買い物に疲れた方はどうぞっていうのが上の方のフロアにあって。本来なら小龍包食べ終わって、ドナテロウズでアイス買って休もうとか、あるいはHMVで買ったCDの中身を楽しく見るっていうフロアのソファに、いつの間にかホームレスの人がいるようになって。それは衝撃的でしたね。でも帰れとは言えないの。入り口であなたホームレスでしょ、入れませんって言ったらもう終わりだよね。でも、そうすると、ホームレスの人が座ったソファには誰も座らないじゃん。だからね、僕ね、高島屋でホームレスを目撃したっていうのはすごい時代感覚っていうか、忘れられないですよね。今はいませんが。臓器がブワっとこう、連鎖的に機能不全を起こした感じがしました」
 
I「ところでデパ地下にホームレスが来て試食しまくるってことはないんですか?」
 
K「デパ地下ではさすがにホーレスは見たことないですね。さっきも言ったけど、中韓国の富裕層の人が、伊勢丹にいっぱい来ちゃって、伊勢丹のデパ地下でそこらに座って食うようになっちゃって。誰が注意しにいくか、みたいな状況でね。で、日本人はとにかく泣き寝入りだから、誰も何も強いことが言えない。それで困った顔してたたずんでいるっていう画が3、4年前ですよね。それから、ホームレスが高島屋に現るっていうのは2年ぐらい前ですよね。中韓国語ができたら、店内アナウンスとか、書いてあることとかを注視するんだけど、とにかくそれらは解決し、非常にエレガントな人々ばかりになった。まあだから、東京は今後でっかい香港になるんですよ(笑)。だって新宿のデパートはミュウミュウと言わず、ディオールと言わず、アナスイと言わずですけど、かならず一人は中韓国語ができる人いないと。もう対応できないし、館内放送はもう英語を聞くより、ほとんど中韓国語を聞いてる感じ」
 
▶続きを読む/東京のカルチャーはデパートが発信していた!?

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