眠れぬ夜の私的偏愛音楽 | Numero TOKYO
Culture / Editor's Post

眠れぬ夜の私的偏愛音楽

外に出ないと体が疲れなくて、なんだか眠れぬ夜が続くこの頃。アルバム1枚をうっすらかけて目を閉じたい。音楽好きを自称するアシスタント・エディター金原が、自宅にあった心地よい眠りに導いてくれるアルバムやEPたちを趣味全開でお届けします。

『Crush Songs』 Karen O

ノイジーでエクスペリメンタルなロックバンド、ヤー・ヤー・ヤーズのボーカリストとして知られるカレン・オーですが、そのソロプロジェクトの美しさたるや。このアルバムの曲はカレンの失恋を綴っており、ベッドルームで録音された、プライベートで親密なアルバム。全体がメランコリックで暗めな曲調に貫かれながらも、重くなりすぎないヌケ感が。ハッピーばかりだと疲れてしまう私はこのくらい暗いほうが寄り添ってくれていいんです。赤いカセットもカレン手描きのジャケも可愛くてお気に入り。

『The Remainder』 Feist

カナダの美しきSSW、ファイストの“傑作”サード・アルバム。ジョニ・ミッチェルを思わせるハスキーボイス、フォーキーなサウンド、気だるげな歌い方が心地いい眠りに誘う。当時iPod nanoのCMソングに起用されヒットした「1234」はそりゃあもう可愛いのですが、それだけではなく、切ない「So Sorry」で始まり、男性とのデュエット「How My Heart Behaves」で静かに終わる、アルバムの構成まるごと愛おしい。毎日、一生聞き続けたいです。

『American Football』(1st) American Football

CDショップでアルバイトしていたときの先輩に教えてもらったアメリカンフットボール。2000年の解散前にリリースしたアルバムが人気すぎて15年の時を経て再結成した伝説のバンド。2016年にセカンド・アルバムを、19年にサード・アルバムを出し、コロナでなくなったけれど、今年6月に来日公演予定でした。ほぼインストロメンタルだしやや実験的、決して誰かに受け入れられたくて作られた作品ではないのに、聞くと誰かに伝えたくなる、温かくていいアルバムです。

『Now That the Light is Fading』 Maggie Rogers

ファレルに見いだされた才能、マギー・ロジャース。大地を裸足で踏みしめるようなビートと透き通った歌声に私も一目惚れならぬ一聴惚れ。このあとにこのEPの曲も収録されたアルバムもリリースされていてそちらも最高なのですが、踊りだしたくなってしまうので寝る前には良くないかも。涼やかな虫の音をバックにした「Color Song」から始まり、コンパクトに5曲でまとまったこのEPこそベッドタイムにふさわしい。

『As Light As Light』 Inc. No World

LAの兄弟デュオ、インク・ノー・ワールド。クリアなカセットテープがかわいい。ソウル、R&Bのグルーヴとささやくような歌声に身を任せれば、とろけるようにいつの間にか寝落ちしていること間違いなし。過去のインタビューでは「幽体離脱するような」サウンドを目指していると言っていましたがまさにそんな、ある種トリップしてしまうような感覚を味わえます。

『The Scarlet Tulip EP』 KT Tunstall

KT タンストールは映画『プラダを着た悪魔』の主題歌「Suddenly I See」で有名なスコットランドのシンガーソングライター。ライブ会場で手に入れたこの7曲入りのEPは、アコースティックギターと彼女の歌声だけ、というシンプルな構成ながらとても豊か。1曲目の「The Punk」のイントロだけで即、心が鷲掴みにされました。

『Silver painted radiance』 Adhitia Sofyan

インドネシアのシンガーソングライター、アディティア・ソフィアン。CDショップでアルバイトしていたとき、繰り返し店内で流すうちにその優しい声とメロウなサウンドの虜になりました。夜眠る前はもちろん、日曜日の朝、目覚まし代わりにこのアルバムをセットしておくと、海沿いのヴィラで目を覚ましたかのような気分を味わうことができます。

『her 世界で一つの彼女』のサウンドトラック

スパイク・ジョーンズの映画『her 世界で一つの彼女』のサウンドトラックは、ほとんどがアーケイド・ファイアによるもの。もはやこのサントラだけでも映画のシーンが浮かぶほど情景描写が豊かで、静かなのに決して退屈させない。残念なことにアルバムでのリリースはフィジカル、ストリーミングともになく、映画をかけっぱなしにするしかないのが現状。主題歌「The Moon Song」のみ配信があり、スカーレット・ヨハンソンとホアキン・フェニックスによるフィルムバージョンも、カレン・オーとエズラ・コーエンによるスタジオ・バージョンも素晴らしいです。

それぞれ、アルバムを通して聞くのがおすすめですが、数曲ずつまとめたプレイリストも作ってみたので、よかったら聞いてください。
※Spotifyでストリーミング配信がないアルバムもあったので、代わりに同じアーティストの別曲を入れました。

ちょっと古めのセレクトになってしまったので、自粛が明けたらレコードショップを巡ってアップデートしたいです。
実際に店舗の棚を見ると、思いもよらぬ出合いがあっておすすめです。
個人的な偏愛に満ちた音楽紹介にお付き合いいただき、ありがとうございました。

Text:Mariko Kimbara

Profile

金原毬子Mariko Kimbara エディター。学生時代にファッション誌編集部でのインターンや雑誌制作を経験し、編集者を志す。2017年扶桑社に入社し営業職を経て、19年『Numéro TOKYO』編集部に異動。主に人物取材やカルチャー、ライフスタイルなどの特集、本誌の新連載「開けチャクラ! バービーのモヤモヤ相談室」などを担当。音楽、ラジオ、ポッドキャストが好きで片時もヘッドフォンが手放せない。

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