BiSHインタビュー「“当たり前”を破壊して自分らしく生きる」 | Numero TOKYO
Interview / Post

BiSHインタビュー「“当たり前”を破壊して自分らしく生きる」

“楽器を持たないパンクバンド”BiSHのメジャー4枚目のアルバムは『GOiNG TO DESTRUCTiON』。まさに、既存のルールやコロナ禍における閉塞感を破壊し、自分らしく生きていこうというBiSHらしい闘志が渦巻いている作品だ。とても華やかでキャッチーな曲が多く、メッセージが深く刺さる。BiSHの6人に、アルバムの聴きどころやルールに捉われずに自分らしくいられる秘訣、そして、今壊したいものについて訊いた。

ニューアルバムのテーマは“破壊”

──アルバム『GOiNG TO DESTRUCTiON』について、それぞれどういう印象を持ちましたか?

ハシヤスメ・アツコ(以下、ハシヤスメ)「最初タイトルをいただいたときは、破壊した先に新しい花が咲いたり、明るい未来が待ってたり、向かってみないとわからないっていうようなテーマがあるんだろうなって思いました。それでレコーディングに挑んで、優しさのある曲もいっぱいあって。タイトルにふさわしいアルバムができたなあって思いましたね」

セントチヒロ・チッチ(以下、チッチ)「とにかくサウンドがかっこいい曲が多くて、『楽曲がいい』っていう印象を受けました。今BiSHが聴いて欲しい曲たちって感じです。それでいて、当たり前を壊すとか、既成概念に縛られない生き方をするっていう、改めて今BiSHの生き方を提示するアルバムになっていると思います。破壊から生まれる人間らしさ、怖さや優しさ、愛とかが歌詞にも出ていて。破壊によって気付くことがあるし、逆に壊せなくて生まれるもどかしさもあったり。でも『STACKiNG』みたいに強く導く曲もあって、いろんな人たちの破壊についての言葉がつまっています」

リンリン「破壊されて、また新たな周期が始まるイメージで、私はそれをポジティブに捉えました。パワフルなライブ感のある作品で、それが音源でもめっちゃ伝わったらいいなと思って、いろんな歌い方に自由に挑戦してみることを頑張りました」

モモコグミカンパニー(以下、モモコ)「7年目に入った今だからこそ、これまでを総括しつつ、ちょっと振り返りも入って今のBiSHでもあるっていう等身大のアルバムになったのかな。破壊って言葉から連想するイメージもそれぞれだと思うので、それぞれのイメージと照らし合わせて聴いてもらえたらいいなって思います」

アユニ・D「歌詞では、破壊する怖さや葛藤、その中の優しさっていう自分が感じたことを書いたつもりです。壊したいけど壊せない弱さや不器用さも入ってるので、ほんとモモコさんが言ったとおり等身大というか、今の自分たちを鏡に映したようなアルバムだなと思います」

アイナ・ジ・エンド(以下、アイナ)「私は『NATURAL BORN LOVERS』って曲の作詞をさせていただいたんですけど、自分がソロアルバムを出したからこそ気づいた人の大切さをテーマにしてて。ソロライブにメンバーが来てくれたり、自分がヒリヒリしてた期間にメンバーが支えてくれたりして、1人じゃ何もできないんだなって痛感して、みんなにソロデビューさせてもらった気持ちになったんです。それで、地球が破壊されるときとか、明日いなくなってしまうときって、人間って直球のことを言うだろうなって思って、私にしては珍しく直球な歌詞を書きました。このときじゃないと書けなかった言葉かなって思います」

ハシヤスメ「アイナってすごく幅広いなと思ってて。『NATURAL BORN LOVERS』の歌詞の『笑いあえたら 涙見せあえたら』っていうフレーズがすごくストレートに刺さるので好きで。昔アイナが書いた『CAN YOU??』の歌詞もストレートだと思ったんですけど、それぶりにこんなにストレートな歌詞が来たな思って嬉しかったです。曲を聴いて、どしゃぶりの雨が降ってるイメージがあって。その中で『うなずきあってまた駆けだそう』って歌うところが特に好きですね」

アイナ・ジ・エンド
アイナ・ジ・エンド

「MY WAY」の仮タイトルは「モモコはモモコ」だった⁉

──例えば「MY WAY」ですとか、ラップがすごく効果的に入ってくるアルバムという印象もありました。

リンリン「前のアルバムから結構年月が経っていて、その間にライブをいっぱいやらせてもらって。個人的には歌にすごく苦手意識があったんですけど、(作詞作曲を手がけた)松隈ケンタさんに『ミュージカルで歌うとしたら』みたいなことを言われて、それでちょっと気が楽になって、何かを耕してるイメージで『MY WAY』は歌いました(笑)。松隈さんもケタケタ笑いながらレコーディングができたので、歌の面で新しいものが見せれたかなと思ってます」

ハシヤスメ「この曲はデモの段階で、色でいうとクリーム色やオフホワイトとか優しい色の曲だなと思って。ビルを解体して更地にしてそこからお花が生まれてまた新しい何かが始まる、そのお花みたいな曲だなと思ったんですよね。破壊した先に優しさがあって生き方を肯定してくれるので、聞いててポジティブになれる。最初冷静に歌ってるんですけど、途中からラップや『そうやっていきてきたんだ』ってガヤが入ってきたり、聴きどころがいっぱいある曲だと思います」

リンリン「私はこの曲ではシャウトしか歌ってないんですけど、ただ叫ぶんじゃなくて、巻き舌でシャウトをやってみました」

モモコ「『MY WAY』は松隈さんの仮歌の時点の仮タイトルが『モモコはモモコ』で(笑)。歌詞も『モモコはモモコです』みたいな歌詞だったんです」

チッチ「本当にモモコってモモコでしかないんですよ(笑)。モモコだけじゃなく、BiSHのメンバーって当たり前なことができなかったり、当たり前に通じると思うことが通じないんですね。私はBiSHに入って、『わがままでもいいんだ』って知ったんですけど、それはモモコの生き方や発言に気づかされた部分が大きくて。このままでも正解で、当たり前に決められた正解にはまる必要はないんだって。この曲はそういうことを歌ってる曲になっています。今モモコってワード何回言ったんだろう(笑)」

モモコ「モモコってワード出る度になんかジワる(笑)」

アユニ「あははは。モモコって言葉、なんかもっこりしててかわいい(笑)」

モモコ「(笑)。でも私はわがままなつもりはなくて『これでいいのかな』ってすごいぐるぐる考えちゃうんです。自分の発言に自信が持てなかったり、みんなにわかってもらえないんじゃないかなって悩んだり。時には自分を曲げることも必要だと思うんですけど、この曲に自分を肯定してもらえた気がして、涙が出るほど嬉しかったんです(笑)。BiSHに入るまで気づいてなかったんですけど、私はいろんな人に合わせるのが苦手で、本当に『MY WAY』の歌詞みたいな生き方しちゃってて(笑)。不器用にまっすぐ生きていくしかないって思ってて。でも、メンバーのことがうらやましくもあって。器用に何でもできたり、人のことをまとめられたり」

──でもBiSHってそれぞれのできないことをほかのメンバーが補ってる感じがすごくしますよね。

チッチ「うん。6人で一個の生命体みたいな感じがします」

モモコグミカンパニー
モモコグミカンパニー

いつか心の拳銃を捨てられたらもっと素直に笑い合えるはず

──モモコさんが作詞した「WiTH YOU」はアルバムの中でもとてもかわいらしい曲で。戦いが終わったらまた別の気持ちで愛し合えるというメッセージを感じました。

モモコ「自分的には切ない歌詞を書いたつもりだったんですけど、レコーディング後に聞いてみたら、すごく明るい曲になっていて。でも、明るければ明るいほど切なくなるから、松隈さんに『明るく歌って』って言われたんですけど、それがいい感じに切なくてすごく好きな曲になりました。声質も他の曲と違ってかわいらしい曲になったなって。BiSHで過ごしてても、日々生きててもそうですけど、みんな何かを守るために笑い合っててもどこかに拳銃を向けてる気がして。それは必要なことなんだけど、いつか拳銃をほっぽり出すときが来たらもっと素直に笑い合えるんじゃないかなと思って歌詞を書きました」

アユニ「強がってしまうことも、知らず知らずに自分を守るために人を傷つけてしまうこともある。モモコさんは日常における感情を言葉にするのがいちばんうまいので、この歌詞にもすごく共感しましたね」

チッチ「私は拳銃をむき出しにしちゃうタイプなので」

全員「(笑)」

チッチ「知らず知らずのうちに拳銃を持っていたことに気づけるって、モモコがすごく優しいからこそだと思う。むき出しの人はもう『持ってます』って思ってるから(笑)。でもそのもどかしさも歌詞の中に入ってて」

モモコ「チッチはミサイル持ってるから(笑)」

チッチ「あははは。好きなら好き、嫌なら嫌って感じで全開なんですよね」

モモコ「でもそれも何かを守るためのチッチの優しさだと思うので。だから悪いことじゃないと思う」

アユニ「うん。ちゃんと真剣に真っ向から向きあってくれる。それは私にはできないので『いいな』って思います」

チッチ「ありがとうございます(笑)」

セントチヒロ・チッチ
セントチヒロ・チッチ

ライブでみんなと盛り上がりたい「狂う狂う」

──チッチさんが作詞した「狂う狂う」はかなりアバンギャルドでエキゾチックな楽曲ですよね。

チッチ「『なんかいいこと言わなきゃいけない』とか、真面目にしていなきゃいけないっていう最近の風潮を感じてて、その中でコントロールされてるって思うことが多いんです。これは本当のことなのか情報操作なのかってめっちゃ考えてるんですよ(笑)。いろんなことを信じたことによってもがくんだったら、好きなように生きるのがいいんじゃないかって。仲間と笑い合いながら『ダメなことやって狂っちゃおうぜ』みたいな感じで楽天的というか、ジャンキーな感情を出してみようと。他の曲はいい歌詞がくると思ったんで、自分はハメ外す歌詞を書いてみようかなと思ったんですよね。他の曲でいうと、『ちーんちんちんちんちんちーん』って歌う『I have no idea.』もめっちゃ好きです(笑)。『いいたいことがない!』って超素直じゃんって。ごりごり青春パンクだしめっちゃいい。絶対ライブ盛り上がるし」

モモコ「ライブで声出せるようになったらみんなに『ちーんちんちんちんちんちーん』のとこ歌ってほしいです(笑)」

アユニ「サビの最後の『全部自業自得でしょ』っていうのを大声で人前で歌えるのって最高だなって思います(笑)」

チッチ「そこ歌いたかった! でもそこ、モモコとアユニとアイナなんですよ」

全員「(笑)」

アユニ「ここ、『来た!』って思いました(笑)」

アユニ・D
アユニ・D

6人で歌うことでもっと好きになれた「STAR」

──アユニさんが作詞した「STAR」は「何物にもなれない僕」や「僕は君の何かになれたかい」という歌詞を中心に、とてもセンチメンタルでBiSHらしいと思いました。

アユニ「最初デモを聞いたとき、『私はこの曲に歌詞書けないな』って思ったので、逆に私らしくない優しさと愛に溢れたものを書いてみようと思ったんです。それをメンバーが聞いてくれたときに『好き』って言ってくれたのがすごく嬉しかった。『空』って単語も入ってるんですけど、これまで自分は『空飛びたい』っていうような歌詞とかは入れるけど、『空を見つめよう』みたいな歌詞は入れてなくて。でもBiSHが今まで歌ってきた曲たちには『空』って単語がよく入ってて。例えば『どんなに遠く離れてても同じ空でつながってる』っていうメッセージって、綺麗ごとにも聞こえるんですけど、それって本当のことだなってようやく気づいて。それで私も『二人でみた空』って歌詞を入れてみて、それをこの6人で歌いたいなって思ったんです。6人で歌ってみてもっと好きになれた曲ですね」

モモコ「アイナが考えてくれた振り付けが2人1組で手を繋ぐハッピーな振り付けで。そのおかげでライブ中も自然と笑顔になれるんです」

チッチ「サビを誰が歌ってても、目の前のお客さんに対して自然とすごく優しい気持ちになれる。『何者にもなれない』って歌詞があるけど、『何者かにならなきゃいけないわけじゃない』って肯定してくれてる気もして。その一方で、目の前の誰かにとって自分が何かになれている感じがするのがすごく本質的で好きですね」

ハシヤスメ・アツコ
ハシヤスメ・アツコ

自分らしくいられる秘訣

──アルバムにちなんで、ルールにとらわれず、自分らしくいられる秘訣があれば教えてください。

アイナ「それはもうリンリンに一番聞いてほしい(笑)」

リンリン「私はもう最初からそういう部分が備わってるから秘訣とかはないんですけど(笑)」

アイナ「かっこいい(笑)」

リンリン「怒られても気にしないし、怒ってる人を冷静に見てしまうんです。でもそれでメンバーにはご迷惑をかけてるので……」

ハシヤスメ「でも私も比較的、何か言われたとしても何も感じないので(笑)」

全員「(笑)」

ハシヤスメ「『感性の死は私の死』ってアイナ・ジ・エンドの『スイカ』の歌詞にありますけど、私は感性が死んでるわけではなくて(笑)、人は自分がやりたいことをやるために生きていると思ってるので、やりたいことやればいいじゃんっていう。だから私も人に対してどうこう言わないですし」

アイナ「私はそういう風に行動できるタイプではないので、だからこそふたりのそういう部分は尊敬します。でもBiSHってみんなでいるとリンリンとあっちゃん(ハシヤスメ)のそういうところも含めてうまい具合に調合されて、いい感じの空気感になれる(笑)。私は人が怒ってたとしたらまず一生懸命聞くので、しんどくなっちゃったりもするんですよね。悪口だとしても全部真向で受けちゃう。でも、最近は自分のことよりも他のメンバーが何か言われてる方が『なんやねん』って思うようになってきたんですよね。大人になってきたんですかね(笑)」

アユニ「私がたぶんこの6人で1番常識を外さないで生きてきたというか。ちっちゃい頃から怒られないようにずっと生きてきたんです。でも、さっき言った『全部自業自得』っていうのと同じで、自分の人生なんだから自分で自分を肯定しなきゃ意味がないということにBiSHの活動を通して気付いて。『これは間違ってるかな』とか、『これやっちゃダメかな』とか思っても、自分が肯定すれば正解になるというか。そう思うことが大事だって思ってます」

モモコ「今これを言ったら絶対変だし笑われるって思っても、とりあえずその場からちょっと離れて外から見たら『いっちゃえ』っていう自分がいるんですよね。例えば、本当はライブでステージに立つのめっちゃ恥ずかしいんですけど、俯瞰すると全然恥ずかしくなくて100%でいけたりする。そうやって自分からちょっと離れてみるってことをやったりしてます」

チッチ「どれくらい自分のその意志が自分にとって正解かってことをめちゃくちゃ考えるんです。それで、学校を決めるときもバイトを決めるときも全部、『おもしろい方に人生が進みそうだ』っていう方にベクトルを向けて生きてきたんですよね。それでも当たり前にとらわれてる自分がいてキモいなってずっと思ってたんですけど、BiSHに入ってやっとその部分を脱げて自分を好きになれた。でも、自分らしくいるためのYESにたどり着くまでに迷うことはあるので、そういうときは信頼できる友達に話すんです。ひとりで生きていかないっていうのが私が自分らしく生きる方法ですね」

リンリン
リンリン

BiSHが今「破壊したいもの」

──では、今それぞれが「破壊したいもの」というと?

アイナ「自分のアゴを破壊したい。顎関節症で左のアゴがずっとめっちゃ痛くて。最近『プロミスザスター』を歌った後、手でカーンって勢いよく左アゴを叩いて、地味にアゴを元の位置に戻してるんですよ(笑)。だから、1回トンカチか何かで誰かに壊してもらいたい」

モモコ「うるさいところが本当に苦手で、すぐひとりになりたがるところ。じっと内にこもりすぎるのと外に出るのを五分五分ぐらいにしたいなと思ってます(笑)」

チッチ「AIです。SiriとかFace IDも使わずに、なるべくAIから離れて生きてるんですけど、結局iPhone持ってたら居場所がわかっちゃうし、今の世界に生きてたらどう頑張っても逃れられなくて嫌ですね。そういう風に思ってない人がたくさんいるのも嫌だし、戦争が起きたら簡単に居場所が見つかっちゃうし。戦争をやめたい。以上です(笑)」

ハシヤスメ「私は比較的綺麗好きで毎日洗濯するしお風呂洗うし掃除もするんですけど、最近リンリンの生き方を知った時に、もっと自由でいいのかなって思って。リンリンもちゃんとやることはやってるんですけど、こういう風にルールに縛られず生きてみるのも楽しいんだろうなって思いましたね。私は髪の毛が落ちてるだけで『さっき掃除したのに!』ってなっちゃう。そういう部分をなくせたら、心の広さがもっとでかくなりそうだなって思いましたね」

アユニ「人見知り。でも、人見知りって結局自分を守るための建前って気づいて。実はほとんどの人は人見知りで、話したくて頑張って対面しに行く人と、私みたいに避けてしまう人のどちらかがいるだけなのかなって。だから『人見知りとか言ってられないな』って思ったんですよね」

リンリン「自分の脳みそを1回壊したい。自分の脳から発生する考え方や感情が気に食わない。悩みすぎちゃって、自分の魂が本当に自分のものとは思えないんですよね。多重人格になっちゃいそうな感覚になるんです(笑)」

Photos:Takao Iwasawa Interview & Text:Kaori Komatsu Edit:Mariko Kimbara

Profile

BiSHビッシュ アイナ・ジ・エンド、モモコグミカンパニー、セントチヒロ・チッチ、ハシヤスメ・アツコ、リンリン、アユニ・Dからなる“楽器を持たないパンクバンド”。2015年3月に結成、16年5月にエイベックス・トラックスよりメジャーデビュー。全国のライブハウスから横浜アリーナ、幕張メッセ展示場、大阪城ホールなどでの大型アリーナでワンマンライブを開催。収益額を全国のライブハウスに寄付する初のベストアルバム『FOR LiVE -BiSH BEST-』、メジャー3.5thアルバム『LETTERS』が「オリコン週間アルバムランキング」アルバムチャート1位を連続で獲得。2021年は、5月14日よりスタートの全12組みとの超豪華対バンツアー「BiSH'S 5G are MAKiNG LOVE TOUR」やアリーナ公演「BiSH SPARKS “My BiSH Forever” EPiSODE 6」などを開催。各メンバーの個性豊かなソロ活動も積極的に展開中。

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