People / Interview

川村元気インタビュー
「先に愛した人が、甘い果実を手に入れる」

映画プロデューサーで作家の川村元気にインタビュー。人々の心を揺さぶる作品を手がけ数々のヒットを生む彼に聞く、現代男女のリアルな恋愛論。

──変わらない男性と付き合っていくには、女性は何をしたらいいのでしょうか?

「絶望を前提に置くこと。『世界から猫が消えたなら』では、人が死ぬという究極の状況になったときに、はじめて人生の優先順位が決まるっていう描き方をしたんですが、恋愛の幸福論も同じ気がしています。絶望のどん底までをイメージすると何をするべきか、何を守るべきか見えてくる。みんなが恋愛を求めていないことを前提だと認めるというか。例えば、恋に悩んでいる女性が対男性へ『あなたたちも恋愛したいでしょう』という視線を送っていたらそもそも成立しないし、分かってくれる人がいるとか、結婚しなければいけないとか、前提から違うということに気づくと根本解決に繋がるかもしれない。女性が、誰も恋愛を求めていない世界を認めた瞬間に、火を見るように選んじゃいけない男性って分かるようになると思うんですけどね」

──「なかなか付き合ってくれない」「結婚したいのに彼が煮え切らない」という女性の声をよく耳にしますが、相手が恋愛しようとしていないのであれば気持ちをぶつけても決断してくれないのは当然のこと。そこを見極めて、分かり合えないことを認めたほうが楽なのかもしれないですね。

「この話をするとそれ自体がすごく絶望的に聞こえるかもしれないのですがそうじゃなくて、現実を見たらあとは光しかない。分かり合えない人たちがハグし合おうとするという方が、生きていく上では感動的だと思うんです。恋愛対象を丁寧に探すようにもなりますよ。『飲み会に来てるからあの人は恋愛したいはず』じゃなくて、恋愛したい人ゼロの日があるのが当たり前だと思うと目を凝らす。でも一方で、女性ってどこか男の人の空白を埋めてあげたいっていう不思議な気持ちがあったりするから、藤代みたいな多くを語らない男の人って僕のまわりでもとてもモテていたりするんです。この人何考えているんだろうな? 何かを求めているけど何も見つからないんだろうな… じゃあ私が!みたいな。そこには行くな地獄だぞ!ってことには、気づいた方がいいかもしれませんね(笑)」

──ヒロインを写真家にしたのには何か想いがあったのですか?

「そこは小説を書いていて一番面白いと感じた部分でした。何となく写真で何となくフィルムカメラだったんです。書きはじめはその理由が僕には分からなかったのですが、書いている途中に適当に組んでいくパズルがちゃんと正方形にはまるみたいな瞬間がありました。写真って恋愛なんです。恋愛は記憶の中にしかないから。自分が今どんな恋愛感情かということがリアルタイムでは分からないのってフィルムカメラに似ていて、撮った瞬間は何が写っているか分からないけど後になって現像して見たときに『あ、こういう顔していたんだ』『自分ってこういう気持ちだったんだ』と分かってくるのが恋愛だと思うんです。だから、女性写真家にもたくさん話を聞きました」

──取材して見えてくることって、日常でもあるかもしれませんね。

「そう。だから、恋愛したい大人は取材した方がいいですよ。この小説自体、自分がこうだろうって勝手に決め付けていたり、甘くみていたことがぶっこわされ続けてきた僕の体験をそのまま書いたようなもので、自分の頭で考えていることって前提から違うことだらけ。ただ言い切れるとしたら、一番甘くていい果実を手に入れているのは『先に愛する』というのをやっている人です。今回書いたフレーズで、男の人から一番刺さったって言われたのが『私たちは愛することをさぼった』で、女性からは『私は愛したときにはじめて愛された』というセリフ。先に愛することの難しさは男女共通みたいです。愛されるのを待ってリターンエースを打とうというのは、虫がよすぎるのかもしれない。はたまた、『愛を失わない方法はひとつしかない。手に入れないことだ』というフレーズが刺さったという人もいるから、考え方は本当に多様ですけどね」

──『四月になれば彼女は』のどのフレーズにマーカーを引くかで、自分の本質的な恋愛観を知ることができますね。そして、みんながどこにマーカーを引くのか気になります。

「僕はタスクくんに共感しますね。女性のストッキングの伝線は絶対指摘しないですから(笑)。読んでくれたらその意味が、きっと分かると思います」

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Photos:Shuichi Yamakawa
Interview:Sayumi Gunji
Text:Yukiko Shinmura

Profile

川村元気(Genki Kawamura)映画プロデューサー、作家。1979年横浜生まれ。『電車男』『デトロイト・メタル・シティ』『告白』『悪人』『モテキ』『おおかみこどもの雨と雪』『寄生獣』『バケモノの子』『バクマン。』などの映画を製作。2012年ルイ・ヴィトン・プレゼンツのCGムービー『LOUIS VUITTON -BEYOND-』のクリエーティブ・ディレクター、同年に初小説『世界から猫が消えたなら』を発表。2014年小説第2作『億男』で2作連続の本屋大賞ノミネート。小説3作目『四月になれば彼女は』が発売中。

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