People / Interview

川村元気インタビュー
「先に愛した人が、甘い果実を手に入れる」

映画プロデューサーで作家の川村元気にインタビュー。人々の心を揺さぶる作品を手がけ数々のヒットを生む彼に聞く、現代男女のリアルな恋愛論。

──女性が能動的なのに対して、男性から告白してくれない、なかなか結婚を決断してくれない、セックスレスなのに気にしていない…など、男性が保守的だというのはよく話題になります。主人公の藤代の行動は常に受け身。現代男子たちの象徴に見えました。

「取材をしていても男性は、ことなかれ主義で受動的。がんばるくらいなら今のままでいいか…という思考の人が思ったより多かった。このズレに女性の苛立ちがあると分かったので、主人公の藤代をとことん『何でこいつ何もしないんだろう』って思われる男性像にしたのはわざとです」

──男性が受け身になりやすい世の中なのでしょうか?

「そうなんですよ。取材した結果、男の人のがんばらなさとか、何を考えているか分からないことに女性たちが疲れ果てている印象をすごく受けました。男同士でも結婚を言い出せないとかセックスレスっていう議題は絶えず挙がるのだけど、全く議論を深めない。なぜ人は、欲しがったり失ったりする人をかっこ悪いとバカにするのだろうという憤りはかねてから感じて、それは僕自身に向けられた刃でもありました。ただ、男性の本音を聞いていると、自信がないだけのケースもかなり多い。一緒にいる女の人を幸せにできるのだろうか? この人のことをずっと愛し続けられるのだろうか?と調べたときに、インターネット上に溢れているのは恋愛の悪いシナリオばかりだから、考える能力だけ進化してしまって全く動けないんですよね」

──全く動けなかった藤代が一歩踏み出すシーンが印象的です。川村さんのつくる世界は、小説でも携わっている映画でも、現実を突きつけられた後に光を見せられる感覚がありますが意図的なものですか?

「今回の場合は、きれいごとではなく、取材した女性たちが誰一人諦めていなかったんです。それが事実だとしたら、諦めていない姿を描こうと。本当はこのままじゃだめだと思っているけど大人だから何もできないという男性の本心を描こうと。僕の小説は1作目から一貫して幸福論なんです。人は何をもって幸せだと感じるのか?の追求。今回の作品では、『大人になって恋愛感情をセルフコントロールできるようになり安定した状態』と、『学生時代に誰かを好きになってじたばたしたり無様な姿を晒したりアンコントロールな状態』では、どちらが幸せだっただろう?という二択を読者にゆだねました。これを読んでも、自分は保守派だと思う人はいるだろうし、セルフコントロールしながら波風のない人生を送るのが幸せなのかもしれないけど、僕はどこかで、今の大人たちも誰かのために走ったり泣いたりしたいんじゃないかなって思っているんです。幸せを判断基準にしたときに、みなさんどちらを選びますか?って」

──きっかけがないと踏み出せないのが大人かもしれません。『君の名は。』も、ある意味そのきっかけのような映画でしたね。

「『君の名は。』を見て、僕より年上の男性たちがかなり泣いていたんですけど、好きな人のために走るとか、叫ぶとか、大人になってできなくなってしまったことをあの映画が代替えしたからなんですよね。ティーンエイジャーの子は『いまの僕たち私たち』を投影しているから全然違う見方ですが、大人たちはかつて自分の中にもエモーションがあったと、昔のつぼを押されている気がします。動員数が1500万人を超えましたが、その中に子どもと大人の両方がいることに希望を感じます。火は消えていないんだなと。あとたぶんこれから数年で、インターネットに感情を逃げ込ませていた我々は気持ちの置き場所をオフラインにしていく時代が来ると思っています。だから『君の名は。』のヒットは予言めいているところがある。インターネットに預けてきた人間関係も欲望も飽和状態でみんな飽きてきているから、生身の感情の方が面白いって、そういう反応だと思うんです」

──消えかかった灯火を蘇らせる、というのが川村さんの作り方なんですね。

「最強の物語って、見た人の人生に混ざって定着する物語ですよね。心の奥で思っているけど言えないことが公になると人は反応するから、『それ、誰か言わないかと思っていたんだよね』という石を投げ続けることがヒットの構造だと思っています。今回の小説では『誰も恋愛していないじゃん』という石を投げました。男が何にもしないよねって、言ったらおしまいだと思われていることをあえて描く。そう考えると、男性って『蹴りたい背中』(綿矢りさ作 2003年)に描かれた10代から、何も変わっていないと気づくんです」

変わらない男性と付き合っていくには?

Photos:Shuichi Yamakawa
Interview:Sayumi Gunji
Text:Yukiko Shinmura

Profile

川村元気(Genki Kawamura)映画プロデューサー、作家。1979年横浜生まれ。『電車男』『デトロイト・メタル・シティ』『告白』『悪人』『モテキ』『おおかみこどもの雨と雪』『寄生獣』『バケモノの子』『バクマン。』などの映画を製作。2012年ルイ・ヴィトン・プレゼンツのCGムービー『LOUIS VUITTON -BEYOND-』のクリエーティブ・ディレクター、同年に初小説『世界から猫が消えたなら』を発表。2014年小説第2作『億男』で2作連続の本屋大賞ノミネート。小説3作目『四月になれば彼女は』が発売中。

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