編集部が選ぶ今月の一冊|金野千恵著『ロッジア 世界の半屋外空間 暇も集いも愉しむ場』
あまたある新刊本の中からヌメロ・トウキョウがとっておきをご紹介。今月は、建築設計事務所tecoを主宰する金野千恵が世界各地の“ロッジア”をまとめた一冊を山口博之(good and son)がレビュー。
『ロッジア 世界の半屋外空間 暇も集いも愉しむ場』
著者/金野千恵
価格/¥3,300 発行/学芸出版社
つなぐ場所としての半屋外の居心地のよさ
人がくつろぐバルコニーの存在
たとえばアメリカ映画でよく見るポーチやヴェランダ、バルコニー。家の延長にある外に張り出た半プライベートな場所で、ロッキンチェアやブランコに座ったおじいちゃん、おばあちゃんが近所の人と挨拶したり、喧嘩しているシーンとして登場する。
もしくは海外旅行先で出会う何とも居心地のいいガラス屋根のあるアーケードや建物から伸びた庇(ひさし)のある柱廊空間は、通路でありながら商店街が共有する広い玄関スペースのようでもあり、椅子とテーブルが置かれることもある。
ロッジア──暇を過ごし、人が集まる場所
本書は、プライベート空間から公共空間、街区や都市といったスケールまで、19カ国74都市に及ぶ世界の多様な半屋外空間を527カ所も現地リサーチして事例を採集。半屋外空間を以下のように定義しながら、イタリアのある半屋外空間を指す「ロッジア」という名前を代名詞的に使い、選りすぐった9カ国13地域の「ロッジア」を紹介している。
・少なくとも一面が完全に外気にさらされながら、屋根や柱、壁など建築要素によって境界が規定されている
・建物に付随することもあれば、独立して建つこともある
・住宅から公共建築まで広く用いられる
屋根があって壁がない風通しのいい半屋外は、守られているけど外には開かれていて、みなの「暇」を受け入れ、多様な振る舞いを許容してくれるおおらかさがある。市場やお祭りが行われることもあれば、婚礼のための場所になることもあり、「集い」ながらも建物よりも出入りが自由で、待ち合わせることも、周囲の風景や人を観察することもできる。
建築家である著者の金野はそうした「暇」と「集い」も愉しめる環境を目指す姿と捉え、「建築的な特徴やそこでの人間の振る舞い」を通してロッジアとは何かを探求していく。
つなぐ場の必要性
ロッジアは、人と人をつないだり、人と場所をつないだり、人と環境をつないだり、人と文化をつないだり、プライベートにもパブリックにも接続、媒介し、時に緩衝地帯のようにもなる。
歴史と文化と暮らしの中で出来上がり、使われ続けてきたロッジア。日本の事例はロッジアのバリエーションとして「縁側」や「濡れ縁」「雁木」が紹介されているが、個別具体的な紹介は今回なかった。西洋的な意味での広場はなかった日本において、日本独自の公共的なロッジアはどんなものがあったのだろうか。きっと日本のこともたくさんリサーチされているはず。もっとたくさんのロッジアに出会えるのを楽しみに続編も待ちたい。そして、新展開として冒頭に触れた映画におけるロッジアについても、ぜひどこかで連載してほしい。
Text:Hiroyuki Yamaguchi Edit:Sayaka Ito
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