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Numero TOKYOおすすめ 2021年のゴールデンウィークに読みたい本

あまたある新刊本の中からヌメロ・トウキョウがとっておきをご紹介。今回はこのゴールデンウィークに読みたい3冊。

『人之彼岸』

著者/郝景芳
訳/立原透耶、浅田雅美
本体価格/¥1,980(税込)
発行/早川書房

AIと人間の未来を描く、中国SFの新鋭による短編集

2016年に短編「折りたたみ北京」でSF最高賞の一つであるヒューゴー賞ノヴェレット部門を受賞した郝景芳(ハオ・ジンファン)。マクロ経済のアナリストとしても活躍し、自身が立ち上げた映像製作スタジオでは中国のSF作家の作品を映像化するなど、多彩な活動をつづける彼女による短編集。

本書には人工知能をテーマとした短編6編とエッセイ2編が収録されているのだが、プロローグ的に短編より先に置かれているエッセイがとても興味深い。人工知能ブームの火付け役となったアルファ碁(Alpha Go)を切り口に、人工知能の未来や人類知能との違いについてつづった「スーパー人工知能まであとどのくらい」は普段なかなか意識することのない人間の脳の働きについても知ることができる。テクノロジーによってスマート化された世界を生きるうえで重要となる教育と学習についてを考察する「人工知能の時代にいかに学ぶか」は、教育事業にも取り組む著者ならではの内容となっている。子どものいる人だけでなく、“人生100年時代”を生きる大人も未来に備えて読んでおいて決して損はないだろう。

人間のくらしの中に人工知能がより溶け込んだ未来を描いた短編も、言うまでもなく優れている。人工知能が容疑者となった傷害事件について当事者たちと裁判官の視点で描いた「愛の問題」、どんな病人も回復させると評判の病院の謎を追う男を描いた「不死医院」はミステリとしても楽しめると同時に、人間の“死”とは何かと考えさせられる。また本書の最後に置かれた、万能の神のように世界化された人工知能・乾坤(チェンクン)と幼い少年の亜力(ヤーリー)の交流を描いた「乾坤と亜力」は心温まる物語でありつつ、“考える”ことの意義も教えてくれる。

カズオ・イシグロの『クララとお日さま』や、漫画家・池辺葵の『私にできるすべてのこと』など、SF以外のジャンルでも人工知能をテーマとした作品が発表される昨今。それらの作品をより深く楽しむ視点も『人之彼岸』は与えてくれると思うので、ぜひ併読することをおすすめしたい。

『短編宇宙』

著者/加納朋子、川端裕人、寺地はるな、酉島伝法、深緑野分、宮澤伊織、雪舟えま
編集/集英社文庫編集部
本体価格/¥748(税込)
発行/集英社

想像力のきらめきが心を照らすアンソロジー

ミステリ、SF、科学小説など、異なる分野で活躍する7名の人気作家たちの作品で編まれた、宇宙をテーマとしたアンソロジー。ひとくちに宇宙といっても、その描かれ方は実にさまざまであり、多様な物語世界に触れられる一冊となっている。

宇宙について詳しくないと本書を楽しめないのではと思う人もいるかもしれないが、そんな心配は無用だ。目には見えない人々の関係性が、星座のように結びついていく場面に出会う父娘を描いた加納朋子の「南の十字に会いに行く」や、コロナ禍によって研究が思うように進まない悩みを抱えた天文学者が、自宅学習中の娘とのやりとりを通して、世界や宇宙とのつながりを再発見する川端裕人の「小さな家と生きものの木」は、やさしさに満ちた家族の物語として楽しめる。

収録された7作品の中には、大地に開いた穴から土塊が空へと昇っていく現象の謎を追求する人々を描いた深緑野分の「空へ昇る」や、宇宙船の中で目覚めた殺し屋が壮大なミッションに巻き込まれる宮澤伊織による宇宙アクション「キリング・ベクトル」など、SFテイストの濃いものもある。その中でも異彩を放っているのが、独創的な言葉遣いを取り入れた作品で知られる酉島伝法の「惑い星」だ。宇宙空間で繰り広げられる星々の壮大なライフサイクルを惑星の視点で描いた物語は、架空の宇宙史ながらも宇宙の神秘や畏怖を感じられる傑作となっている。

日常から離れたいとき、人間の想像力が生み出した作品の力を借りる人も多いと思う。さまざまなことが狭まりがちな現在、本書に収録された物語を通して視野や感覚を多方向へと広げてみてほしい。

『しつこく わるい食べもの』

著者/千早茜
本体価格/¥1,540(税込)
発行/ホーム社

“食”を通してとらえた、変化する世界と内面の記録

尾崎世界観との共作小説『犬も食わない』や、小説『男ともだち』『透明な夜の香り』などの作品で知られる千早茜。彼女による“食”をテーマとしたエッセイ「わるい食べもの」シリーズ第2弾となる本書。タイトルを見て嗜好品といった、健康に“よくない”食べものをカタログ的に紹介するエッセイかと思う人もいるかもしれないが、まったくもってそうではない。

簡単に説明するのであれば、“食”を切り口に著者の日常についてや“常識”とされていることへの疑問など、多彩な内容がつづられたエッセイである。しかしパフェ評論家が集中してパフェを味わう姿にエロスを感じてどぎまぎした体験や、食を提供する側が発する「たった一言で食べているものをおいしくなくなさせてしまう呪いの言葉」への心理的抵抗感など、独自の視点で世界をとらえた文章は、“食べる”という行為がいかに多様な感情を生み出す営みであるかを気づかせてくれる。

また本書の後半からは「行きたくもない飲み会や形式だけの会食で食べたくもないものを食べなくてもいいのだと書き連ねるつもり」で始めたエッセイの連載がコロナ禍によって思わぬ影響を受け、著者の“食”に対する意識が変化していく様子の記録となっているのも興味深い。「食に今年ほど救われた年はない」と連載を締めくくった著者と同じ感情を抱いている人はもちろん、日常における心のよりどころを探している人にもすすめたい一冊。

ヌメロ・トウキョウおすすめのブックリスト

Text & Photo:Miki Hayashi Edit:Sayaka Ito

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