Numero TOKYO おすすめの2020年2月の本 | Numero TOKYO
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Numero TOKYO おすすめの2020年2月の本

あまたある新刊本の中からヌメロ・トウキョウがとっておきの3冊をご紹介。

『息吹』

著者/テッド・チャン 訳/大森望 本体価格/¥1,900 発行/早川書房 Amazonで購入

映画『メッセージ』原作者が放つ、待望の最新作品集

短編「あなたの人生の物語」を映画化した『メッセージ』で、その名を世界に知らしめたテッド・チャン。1990年の商業デビュー以降、発表した作品はわずか18編という寡作ながらも、世界のSF文学賞を20冠以上獲得している異才の17年ぶりとなる最新作品集。 生命の源を探求する科学者を描いた驚きに満ちた表題作をはじめ、収録された9編はどれもが傑作。ジャンルとしてはSFに分類されるものの、“成長”するAIと彼らを“親”として育てる人々との関係性を描く「ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル」をはじめ、ヒューマンドラマとして優れた作品も多いので、“SFは読み慣れていないから”という理由だけで本書を敬遠することはどうか避けてほしい。新しいテクノロジーが次々と誕生し、暮らしや価値観が変化していくなかで、いかにわれわれが人間として“正しく”あるべきかを問いかける、卓越した知性と才能が見事に結晶化した一冊。

『どこか、安心できる場所で 新しいイタリアの文学』

著者/パオロ・コニェッティ、他
編者/関口英子、橋本勝雄、アンドレア・ラオス
訳/飯田亮介、中嶋浩郎、越前貴美子、粒良麻央
本体価格/¥2,400
発行/国書刊行会
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イタリア文学の“いま”を伝える極上のアンソロジー

2000年以降に発表された13名の現代イタリア人作家による15作品を収録した、本邦初となる21世紀イタリア短編アンソロジー。世代や背景、キャリアなどがさまざまな作家と翻訳者たちが紡いだバラエティー豊かな作品は、物語という形を通してイタリアの“いま”を伝えてくれる。

収録された作品は宗教や民族における文化・伝統の差異から生まれる葛藤をテーマとした社会性の濃いものが多い。と同時に、社会における居場所を見いだせない悩み、価値観の異なる家族やパートナーとの不仲など、親近さを感じる事柄を描いた作品も多く、国や文化の隔たりを軽々と越えて読み手であるわれわれの心を共振させる。

13名の作家のうち11名が日本初紹介だが、作家の小野正嗣氏による序文も作家・作品紹介のページも、読書欲を掻き立てる充実した内容となっている。現代イタリア文学の入門書として楽しめるだけでなく“世界”へのまなざしも広がる、この上ない読書体験をもたらしてくれる一冊。

『となりのヨンヒさん』

著者/チョン・ソヨン
訳/吉川凪
本体価格/¥1,800
発行/集英社
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そっと心に寄り添う、韓国生まれのやわらかなSF

2017年に〈韓国SF作家連帯〉を設立し、初代代表を務めたチョン・ソヨンの短編集となる本書。地球での暮らしを体験するために遠くの衛星からやってきた隣人との風変わりな交流を描いた表題作をはじめ、巨大企業に支配された宇宙を背景に恒星系への移民や格差の問題を描いた連作など、全15編が収録されている。

登場人物が並行世界を行き来したり、宇宙での暮らしや渡航が可能となった未来が舞台になっていたりと、作品集としてはSF小説としての要素を多くはらんでいる。しかし韓国の歴史的背景を想起させつつ、人生の岐路に立たされた人や、悩みを抱えた人々の心の動きを細やかに描き出した作品たちは、科学性の高いハードSFとはまた違ったあたたかな読後感をもたらしてくれる。また初見ではポップさを感じる装画も、読了後に見直すと異なった印象を覚えるはず。読書をきっかけに生じる感覚の変化も、ぜひ楽しんでほしい。

ヌメロ・トウキョウおすすめのブックリスト

Text:Miki Hayashi Edit:Sayaka Ito

Magazine

MAY 2024 N°176

2024.3.28 発売

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