杉野希妃、主演監督作品『雪女』が東京国際映画祭にて公式上映 | Numero TOKYO - Part 2
Ms.COINTREAU / Post

杉野希妃、主演監督作品
『雪女』が東京国際映画祭にて公式上映

夢を追い求める女性をサポートする「コアントロー・クリエイティブ・クルー」として、「コアントロー」が支援する日本人女性クリエイターのひとり、杉野希妃が主演監督を務める作品『雪女』が完成。公式上映の場となった第29回東京国際映画祭、会期中の彼女に直撃した。

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──雪女に共感できる物語になっていたと思います。 「ただのゴーストストーリーにはしたくなかったんですよね。小林正樹監督の『怪談』で描かれた『雪女』も素晴らしいんですが、小林監督版も田中徳三監督の『怪談 雪女郎』というリメイク版も、巳之吉が秘密をバラした瞬間にユキの目の色がカッと特殊物っぽく変わるんですよ。雪女をもう少し人間的に描いた方が、今の方々にも共感していただけるものになるし、私らしいんじゃないかなとは思っていました」 ──杉野さんは、神話だったり日本の原風景を映像で残したいという考えがあるんでしょうか? 「受け継いできたものをそのまま次世代に伝えていくことも大切だけど、その時代の感覚をミックスして新たなものを構築していく、進化していくは、いつの時代でも必要な気がするんです。そういう作業を映画を通してできたらいいなと思っています。そうでないと、世界がさらに閉鎖的になっていくような気が何となくしていて。線引きが様々な次元でされている時代ですから、線を引かない“◯◯レス”なものを欲する時代に生きていると思うんです。それは、時代も、国も、ジェンダーも。『定義できない、実体を掴みにくいのが私たち自身だ』と私は考えますし、だからこそ面白い。ここに、共感するという層は、たくさんいるはずです。そのなかでどう自分を見出だしていくのかという作業をしていきたいし、『雪女』でも夢と現実とか、生と死とか、善と悪とかいろんな意味での狭間の世界を描いたつもりです」 ──佐野史郎さん、青木崇高さんなどキャストの方々とのコラボレーションはいかがでしたか? 「脚本段階から佐野史郎さんと青木崇高さんには出ていただけたらいいなと思っていました。佐野さんとは、2013年に『禁忌』という作品で共演させていただいたときに、『雪女』を撮りたいとお話ししたんです。すると、佐野さんが「チェコのイジィ・バルタ監督のアニメーション『雪女』を、以前プロデュースしたんだよ」と教えてくださいました。佐野さんは島根県の松江市出身でいらっしゃるし、小泉八雲の研究家でもあるんです。そういったご縁もあって、佐野さんに是非ご出演いただきたくて、原作にはない役を作ったんですよ。脚本を書いている時に感覚的に使っていた言葉を、佐野さんはより深く解釈してくださって、撮影中もディスカッションをかなりしたんです。そのおかげで、その言葉が持つ意味や本質にしっかりと向き合うことができました」
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──佐野さんが、キーパーソンなんですね。 「そうなんです。もちろん青木さんもキーパーソンの一人です。青木さんは土的なエネルギーに溢れていて、日本の心を大切にする、誰よりも熱い方なんです。小泉八雲が描いた雪女では、登場人物の感情の機微が一切描かれていないんですが、そこに青木さんの熱量が加わることで、雪女とは全く対照的な存在を生みだすことができるのではないかという期待もありました。実際、ご一緒にお仕事をしてみて、野性的かつ大胆でありながらも非常に繊細な魂をお持ちの方だなと感じましたね」 ──娘ウメ役の山口まゆさんも美しかったです。 「未来を担っていく存在として、ウメには希望の光になってほしいという願いを込めました。山口さんは、無垢な雰囲気ですが、どこか達観した次元で、遠くにある神秘とつながるような眼差しがあります。雪女の娘役に合うのではないかなと直感的に思いました。最後のシーンで山口さんが見せた表情は、忘れられません」

東京映画祭のコンペ部門選出が決まったときの想い

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Photos:Yuji Namba
Interview:Tomoko Ogawa

Profile

杉野希妃(Kiki Sugino)女優、映画監督、プロデューサー。慶應義塾大学在学中に留学先の韓国で女優デビュー。2006年『絶対の愛』(キム・ギドク監督)に出演後、帰国。10年『歓待』(深田晃司監督)、12年『おだやかな日常』(内田伸輝監督)など女優兼プロデューサーとしての活躍が脚光を浴びる。14年監督第二作『欲動』が釜山国際映画祭で新人監督賞を受賞。また、ロッテルダムをはじめ国内外の映画祭に審査員としても参加している。出演作『海の底からモナムール』(ロナン・ジル監督)、『ユキとの写真(仮)』(ラチェザー・アブラモフ監督)が公開待機中。 kikisugino.com

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