生命とは何か──私たちはまだ知らない。まずはその事実から始めよう。シャネル・ネクサス・ホールに出現する、AIと生命科学の交差するヴィジョン。未知の生物を思わせる姿──その在りようが物語る、私たちへの問いかけとは。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2025年11月号掲載)

テクノロジーとエコロジー。この二つの関係を、どう捉えればいいだろう。自然を人間から切り離し、制御を試みてきた現代文明の大いなる矛盾。それは人間、すなわち生命こそは自然の一部であるということではなかったか。




この問いにアルゼンチン出身のアーティスト、ソフィア・クレスポはAIと生命科学のアプローチで新たな視点を提示する。AIに模倣させた有機的な形態がどう進化していくかを探求し、ノルウェー出身のアーティスト/研究者であるフェイレカン・カークブライド・マコーミックとエンタングルド・アザーズを結成。古典物理学では説明できない量子間の相互作用を表す量子力学の概念「entanglement=もつれ合い」を軸に、生命の様相を描き出す。栄養に満ちた深海の水が表層へ湧き上がり、生態系を支える現象「湧昇(ゆうしょう)」に着目した作品。デジタルイメージの遺伝子組み換えモデルによる3Dプリント彫刻。これらはあまりの複雑さゆえに人間が認識できない生命活動の在りようをAIによってシミュレートし、新たな創造性を模索する試みといえる。

生命とは、自然とは何か──。この問いに正面から向き合い、技術と人間の新たな関係を照らし出すアートの試み。最先端のヴィジョンがここにある。
ソフィア クレスポ / エンタングルド アザーズ
「Synthetic Natures もつれあう世界:AIと生命の現在地」
キュレーターの長谷川祐子が主宰する「Hasegawa Curation Lab.」とのコラボレーション企画第2弾として、三宅敦大(HB.共同代表)がキュレーションを担当する。最新情報はサイトを参照のこと。
会期/10月4日(土)~12月7日(日)
会場/シャネル・ネクサス・ホール
住所/東京都中央区銀座3-5-3 シャネル銀座ビルディング4F
URL/https://nexushall.chanel.com/
Edit & Text : Keita Fukasawa
