
才能あふれる新世代のスターが集い、互いにインスピレーションを与え合い、シャネルのアイコニックなスタイルを再解釈し、新たなクリエイションを生み出す「コメット コレクティヴ」。最初のアーティストとして選ばれた3人のアーティストが揃って来日。親密で信頼に満ちた関係性を築き上げている彼女たちに、これまでの軌跡と現在地についてインタビュー。

──「コメット コレクティヴ」の誕生から2年半が過ぎました。あらためて、どのようにクリエイションをしているのか教えてください。
セシル・パラヴィナ(以下セシル)「私たちは年1回、コレクションを、シャネル メークアップ クリエイティブ ストゥディオとともに作っています。3年目を迎えた今、私たちはとても自然な流れで互いにフィートバックを求め、交わし合い、認識を共有しています。異なるバッググラウンドを持つからこそ、視野は広がり多様な価値観に応えるリミテッドコレクションを生み出せているのだと思います」
アミィ・ドラマ(以下アミィ)「私たちは単に“色”をつくり出すだけではなく、何をすべきかを考えます。届けたいストーリーの背後にあるコンセプトをどうするのか、それをどんなテクスチャーにして、どんなイノベーションを実装して届けるのか、といったようにです」
ヴァレンティナ・リー(以下ヴァレンティナ)「現在進行形で手がけているものに関しても、今後クリエイトしていくプロダクトに関しても、それは同じです。私たちの限界をさらに押し広げ、シャネルというメゾンのDNAを繋いでいくために何ができるのか。ブレインストーミングをたくさん行っています」

──ガブリエル・シャネルのスピリッドやエレガンスと、どのように向き合い、クリエイションに反映していますか?
セシル「私たちは幸いなことにガブリエル・ シャネルが住んでいたパリ・カンボン通りのアパルトマンに足を踏み入れることができ、『シャネル パトリモニー』では彼女がデザインしたファインジュエリーのアーカイブを学ぶことができました。貴重で膨大な歴史的遺産に触れることで、彼女がどのような人物で、なぜそのようなクリエイティブをしてきたのか理解することができたと思います」
アミィ「それはとても興味深いことで、さらにシャネル メークアップ クリエイティブ ストゥディオは、メゾンへの理解をより深める手助けをしてくれます。私たちはシャネルの膨大なレガシーにいつでも立ち返ることができるのです」
ヴァレンティナ「私たちにとっては、シャネルのフィロソフィーを学ぶ“大学”みたいなものなんです」
セシル「ガブリエル・シャネルは新しいライフスタイルの創造を目指し、そのためのプロダクトを開発しました。彼女のエッセンスを表す言葉として『私は、来たるべきものの側にいたい』がありますが、この言葉が示すように、モダンであり続けることは、十分に可能だと思います。そう考えると、私たちの協働は、シャネルとの“融合”というよりは、彼女の意思を引き継ぐものだと考えています」
ヴァレンティナ「時代の変化に合わせて、エレガンスの在り方も進化してきました。たとえば、50年前のエレガンスの象徴は赤いルージュでしたが、今はベージュというように。私たちはシャネルの揺るぎないDNAを継承しながら、時代に呼応して新たな視点を取り入れているのです」
アミィ「シャネルが生み出してきた膨大なアーカイブが物語るように、新しいものを生み出すというある種のリスクを冒しながらも、それらは決してエレガンスや時代と衝突することがなかった。私たちのクリエイションも新しいものを生み出しながらタイムレスであり続けることは可能だと考えます」

──「コメット コレクティヴ」始動から2年半。それぞれの関係性や印象の変化についてお聞かせください。
セシル「ヴァレンティナは“BABY ENERGY”を持っている人で、アミィは“MOM ENERGY”。となると私は必然的に“DAD ENERGY”になりますね」
ヴァレンティナ「私たちは出会ってすぐに親友になりましたが、2年半の時を経て家族になっていたと思います」
セシル「『コメット コレクティヴ』がある意味、私たち一人一人を輝かせることに役立ったのも事実です」
ヴァレンティナ「それぞれに個人のスタイルがあり、塗り方のテクニックや得意分野が違う。メイクの質感でいうと、セシルはマットな仕上がりが得意。アミィと私はグロッシーな質感を好みます。なので、マットフィニッシュのアイシャドウをつくるときには、セシルにアドバイスを求めます。そういったコミュニケーションが自然と起こって、とてもポジティブな形でコラボレーションが進んでいるなと思います」
アミィ「もちろん、これだけ長い時間を一緒に過ごし、ともにクリエイションをしているので、確実に影響は受けています。私たちは個々のスタイルを持っていますが、互いの創造性に貢献できているようにも思います」
セシル「ふたりのクリエイションやメイクアップに触れることで、これまで私にはなかった、新しいアプローチや色使いが生まれ、視野を広げてくれました。私たちは互いのコレクションを手に取るたびに、新たな発見に胸を高鳴らせています」


──「コメット コレクティヴ」をはじめ、さまざまなクリエイションを手掛ける中で、インスピレーションを得たものを教えてください。
セシル「前回の来日の際、生け花を体験する機会があり、そのときに手にした陶器の釉薬の美しさに感動しました。それがリキッドリップのインスピレーションにも繋がりましたね」
アミィ「ロンドンで訪れた、現代アーティスト、ノア・デーヴィスの展覧会がとても印象的でした。さまざまな家族写真や日常を写したヴィンテージ写真をコレクションされていて、それらを自身のインスピレーションの源として用いることも。そのクールなアートは、今、私たちの『コメット コレクティヴ』とも通じるところがあると思いました」
ヴァレンティナ「最近、山口小夜子さんの写真集を手に入れました。ページをめくるたびに、多彩なメイクアップに目を奪われましたが、中でも強く惹かれたのはゴールドのあしらい方。美しいけれど、他の色と混ぜるのが難しく、これまで敬遠してきた色。それが、私の大好きな赤とこれほどまでに素晴らしく調和するとは。新たなインスピレーションも得て、300ドルという価格を超える価値が十分にありましたね」

──日本の文化やメイクからインスピレーションを得たものはありますか?
ヴァレンティナ「日本の女性たちは非常に入念にメイクし、ディテールが細かく、同時にクリーン。そして、その中でもキュートに遊ぶ人もエレガントに遊ぶ人もいて、総じて色の使い方が自由で素晴らしい。私たちのコレクションを、皆さんがどう解釈してどう使うかが、毎回楽しみです」
セシル「私が初めて日本を訪れたのは2018年。その時すでに日本文化に魅了されていました。唇や頬を彩ってきた紅花の歴史、山口小夜子さんが体現する美しさ。歌舞伎があり、人形浄瑠璃があり、ビジュアル系バンドもある。小島よしおさんのファンでもあります。『ファイナルファンタジー』といったゲームにも没頭してきましたが、キャラクターデザイナーである天野喜孝さんの色彩感覚に、私のアイメイクのカラーリングは大きく影響を受けているように思います。そして何よりも、日本女性のメイクを見るたび、まつげ1本1本にまで宿る緻密なこだわりに、『まさしくエキスパート!』と感銘を受けます」
アミィ「セシルが語っていたように、非常に個性の強い文化を育みながらも、どこか繊細でフェミニンな色合いが息づいている。これこそ、日本のユニークさであり、美しさだと思います。そして、個人的に強く惹かれるのは小松菜奈さんの美しさ。彼女はまるで“未来の顔”のようであり、世界に認められる新たな美の基準を体現しているように思います」

──最後に今後の展望についてお聞かせください。
ヴァレンティナ「私たちが常に意識するのはトレンドではなく、ストーリーであり、革新。私たちは占い師ではないので、未来はわからないからこそ、心からいいと思えるものをつくる。そうすると、オーディエンスがそれを手にし、評価することで、トレンドになっていくと思います」
セシル「無数のプロダクトが存在する中で、たとえ限定のコレクションであっても、長く使ってほしいと願っています。そして、記憶に残り、語り継がれることで、タイムレスな存在になれたら、と思いますね」
アミィ「シャネルという偉大なメゾンにおいて、今までのアーカイブや自分たちの過去の作品と重なるわけにはいかない。互いの魅力や個性を理解しながら、もっと自由に、もっとアイディアをひねって、『既成概念にとらわれない』こと。それが私たちの使命だと思っています」
ガブリエル・シャネルのスピリッドを受け継ぎ、新たなビューティを形づくる「コメット コレクティヴ」。多様性と革新的、そしてエレガンスを併せ持つストーリーは、これからも私たちを魅了し続けるだろう。
Photos : Courtesy of CHANEL Edit : Naho Sasaki Interview & Text : Hiromi Narasaki