People / Interview

女優と監督、プロデューサーの3役をこなす
世界へと羽ばたく映画人 杉野希妃

日本だけでなくアジアを中心にボーダレスに活躍する映画人、杉野希妃。女優、監督、プロデューサーと3つの役をこなす彼女にインタビュー。

目指すのは、日本映画界でも逸脱した存在

──自らプロデュースし、監督し、出演することによって、日本映画に根付く価値観の壁をすり抜けたものづくりができるという実感はありますか?

「そこを目指したいという想いはあります。固定観念だったり、既成の価値観は打ち砕いていきたい。マジョリティを描くというよりも、マジョリティは存在しなくて、みんなそれぞれマイノリティじゃん、という楽観でも悲観でもないひとつの冷静な目線みたいなものは自分の作品の根底にありますね」

──それは勧善懲悪だったり、極端な描き方をしないということ?

「曖昧な狭間で揺らいで存在しているものが人間であって、映画だなぁと思うので、そういう揺らぎを描いてるんじゃないかなと。自分自身がレッテルを貼られたり決めつけられることがすごく嫌なんです。以前、大学名を答えただけで、『ハングリー精神がないんだね』と言われたんです。逆に自分の出身や生い立ちを話すと、『ハングリー精神があるね』と言われる。なんなんだこれはと(笑)。デビューしたてのときなんて、『馬鹿なふりをしたほうが好かれるから、常にわからないふりをしたほうがいい』とアドバイスをされたこともありました」

──若い女性が男性社会で言われがちなセリフですよね。

「とんでもない!と思った。むしろ自分が無知だということをちゃんと理解したうえで学んで賢くなっていかなきゃいけないし、女性も男性もそうじゃないですか? 知性がない自分に幻滅して、身につけたいと思うことが大事で。そういう偏った常識や慣習に抗いたいという気持ちはすごくありますね。私の一部だけを取り上げて判断されるのが嫌なので、映画についても決めつけたくないという想いもあります」

──ジャンルレスな作品を作られている印象はあります。ジャンル分けする業界に対する疑問もありますか?

「ジャンルがないのが私の欠点と言う方もいます。曖昧って悪いイメージがあるけれど、私は曖昧にこそ面白さがあると思う。曖昧さに未来を感じます。ジャンル分けって、馬鹿らしいじゃないですか。こうした疑問は強く持っていますけど(笑)、でも反逆したいとかではなくて。監督をするときも、できているかはわからないけれど、丸く収めるよりは逸脱した瞬間を捉えたい、逸脱した存在でありたいと思ってます」

──撮影現場でも役者さんの意見に積極的に耳を傾け、変えることも厭わない姿勢が印象的でした。

「傍から見ると、頼りなく思うかもしれない。でもそれでいいんです。自分が100%正しいなんて思ったこともないし、思えない。もちろん脚本はばっちり作るのですが、あくまでガイドラインに過ぎないというか、周りの意見を取り入れながらどんどん変えて進化していきたい。書いている自分も裏切りたいし、そうすることで映画も生き物になり、自分自身も生きてるという実感が湧くんです。ものづくりってそういうことだと信じていますし、それが楽しいんですよね。核はブレずにかたちを柔軟に変えれば、自分も刺激を受けながら絵も豊かなものになっていくという作り方は、マレーシアのエドモンド・ヨウ監督とご一緒したときに教わりました」

──韓国語に英語と語学も習得されていて、努力も怠らない姿勢も素晴らしいですよね。

「英語は全然ダメなので、いずれ語学留学をしたいと思っています。私の場合は勢いというかノリの良さと映画が好きという情熱だけで今まで乗り越えてきてるので(笑)。語学だけじゃなく、ちゃんと演技や演出の勉強もしに行きたいですし、正式な形で学んでないことに対する心もとなさは常に感じています」

残したいのは、目には見えないもの

──映画作りに携わることの喜びは、どこにあるのでしょうか?

「私マゾなんです(笑)。サドの面ももちろんありますが、辛いときこそ楽しいというか、燃えるんです。私自身が、新しい世界に触れたい、新しい自分を見つけたいで埋め尽くされた自我の固まりなんだと思うんですよね。だから、物語を作るときも、予算を削れと言われて新しい案を考えるときも、演じてるときも、みんなと意見交換しているときもすごく楽しい。すべての過程が全部辛くて、全部楽しいんです。でも、常に刺激を求めることは弱点でもあって、たとえるなら、試着しても、着ている自分の姿を鏡であまり見ずに次のものを漁ってしまう。そんなところはありますね(笑)」

──2014年に制作した『マンガ肉と僕』で初の長編監督デビューを果たし、男に嫌われるために女を捨てて太っていく女性・サトミを演じましたが、あの役は自分がやりたいという想いがあったのでしょうか。

「社会と男に翻弄され、翻弄しあうサトミという役に関しては、自分で演じたいと思っていました。役に対する共鳴やもどかしさを全部ひっくるめて演じることで、何かを乗り越えたかったんでしょうね(笑)」


cointreau #07 杉野希妃
cointreau #07 杉野希妃

──2015年1月に映画祭に訪れたオランダで交通事故に遭われて、物の見方が変わったとか?

「目に見える肉体というか外側に囚われていないつもりだったのに、すごく肉体に囚われてたんだなぁと。事故で心身ともに傷はついたのですが、数ヶ月経ち、結局それは大したことないと思えたんです。最終的に自分が残したいものは、映画というかたちのあるものを通してにはなるけれど、感情とか思想とかエネルギーとか目には見えないものなんだということ。そこに気づけたことは良かったです」

辛くて楽しい、だから映画
づくりはやめられない

Ms.COINTREAU

Photos:Yuri Manabe 
Styling:Megumi Yoshida 
Hair & Make:FUMIKO HIRAGA for SENSE OF HUMOUR
Direction & Interview:Tomoko Ogawa 
Edit:Yukiko Shinmura

Profile

杉野希妃(Kiki Sugino)女優、映画監督、プロデューサー。慶應義塾大学在学中に留学先の韓国で女優デビュー。2006年『絶対の愛』(キム・ギドク監督)に出演後、帰国。10年『歓待』(深田晃司監督)、12年『おだやかな日常』(内田伸輝監督)など女優兼プロデューサーとしての活躍が脚光を浴びる。14年監督第二作『欲動』が釜山国際映画祭で新人監督賞を受賞。また、ロッテルダムをはじめ国内外の映画祭に審査員としても参加している。現在は『マンガ肉と僕』が全国順次公開中。 kikisugino.com

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