宮本浩次(エレファントカシマシ)インタビュー「デビュー30年、やっぱりバンドが一番」 | Numero TOKYO
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宮本浩次(エレファントカシマシ)インタビュー「デビュー30年、やっぱりバンドが一番」

旬な俳優、女優、アーティストやクリエイターが登場し、「ONとOFF」をテーマに自身のクリエイションについて語る連載「Talks」。 vol.25はエレファントカシマシのボーカル・ギター、宮本浩次にインタビュー。

エレファントカシマシ48枚目のシングル「夢を追う旅人」がリリース。“さあ行こうぜ どでかい明日へ”とポジティブでストレートなメッセージに込めた想いとは? 古地図、中国茶、建築など多趣味なことでも知られるミヤジこと宮本浩次にクリエイションの背景にある日常や、最近ハマっていることについて聞いた。

壮大な夢より、実現可能な夢へ

──今回のシングル『夢を追う旅人』は“夢”という言葉がストレートに使われています。先日50歳を迎えられたわけですが“夢”という言葉に対する思いに変化はありましたか。

「僕の場合、若い頃は“夢”という言葉が気恥ずかしくて、ほとんど使いませんでした。小学生の頃、例えば、新幹線やトラックの運転手、テレビの司会者になりたかったわけなんだけれども、それも“夢”というよりは、拍子で言っていたんじゃないかな。若い頃は、壮大なものを無理だとわかっていて追いかけていたけれど、今はもっと実現可能なところに手を伸ばしたい。今回のシングルは、明治の企業CM曲なんですが、それに登場するアスリート(レスリング・登坂絵莉選手)は尋常ならざる実力の持ち主なんですね。さらに信じられないほどの努力をして、オリンピックで見事、金メダルを取りました。実現可能なものに向かって努力をすることは “夢”という言葉が当てはまる気がします。僕らの場合はこの曲のヒットが“夢”です。そういう意味でも、今は本当の意味での“夢”を見ているのかもしれません」


──ストレートで力強い歌詞ですが、言葉に対する意識の変化は?

「言葉について特に意識していないのですが、今はシンプルに歌おうと思っています。生活もだいぶシンプルになりました。タバコを止めて、毎朝約1時間かけて体操をしています。30代前半までは、タバコを1日に100本200本吸ったり、コーヒーを30杯40杯飲んだり、食事の後でもポテトチップス2袋食べるなど、わかりやすく体に悪いことをして裏声が出にくくなっていたのですが、今はたとえば『珍奇男』という裏声を駆使する曲では裏声が出るようになりました。今最近はジューサーでほぼ毎朝野菜ジュースを作るのが楽しみで。腹筋運動も2年続けていたらちゃんと筋肉がつきました。継続すると体に変化があるんだと実感しています」

生活も音楽もストレートに

──2012年に外リンパ瘻を患い1年間活動を休止したことも、きっかけのひとつなんでしょうか。

「それも大きいですね。誰もが思うことなんだけど、僕もご多分に漏れず日常の尊さというか、健康の大事さがやっとわかりました。僕らはデビューして30年、メンバーとは40年近く一緒にいますが、やっぱりバンドが一番なんです。今回のシングルに『たそがれて うつむきがちに歩いていた』という歌詞があり、自分でもホロリとしちゃうんだけど、老いさらばえていくようでも、きちんと食事して体にいいことをすれば、ちゃんと元気になるんですよ。『ひとくちの力』という歌詞もあるんですが、まさにそういうことかなと。自分にも、音楽にも真摯であり続けたいですから」

──そのときの生活が作品に反映されているんですね。

「今は生活がシンプルだから、言葉もシンプルになっているんでしょうね。今回はジャケットも、エレファントカシマシとはどういうものだろうかとカメラマンと相談しまして、自前の黒のスーツに、白いシャツで髪もグシャグシャに。CDジャケットは音楽への入口ですから『よし、やってやるぞ』というポーズでね。もちろん、普段からこんなことしてるわけじゃないですよ。でも歌がストレートだから、ジャケットもストレートにしました」

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帽子ひとつで近所の公園もリゾート地のよう

──宮本さんは古地図・中国茶などたくさんの趣味をお持ちですが、趣味の時間のどう確保されているんですか。

「健康のために時間を使うようになったので、確かに忙しくなりましたが、洋服を買いに行くことが好きになりまして。自分で選んだ服を着るのは、また気分が違うんですね。さきほどの“夢”の話もそうですが、以前は着飾ることが恥ずかしいと思っていました。よく話しながら髪をぐしゃぐしゃにするのも、照れでワザとしているんですよ。まあ何に照れているんだかという話ではあるんだけど。最近、オフでよく帽子を被っているんですが、なぜかというと、帽子を被るだけでリゾート気分が味わえることが判明しまして。先日、選挙の期日前投票に帽子を被って行ったら、近所の10分ほどの道のりをまるでリゾート地のような気分で歩くことができたんです」

──やはり帽子にもこだわりがあるんですか。

「芥川龍之介が麦わら帽子を被っていて、いつか自分もと思っていたんです。50歳になりましたし、似合うと思えるときにチャレンジしようと。選びに選んだ帽子が気持ちよく被れた日には、強い太陽の日差しの下でも歩くことが楽しいんですよ。それから、オフは白やベージュなどの薄い色の服も着ています。みなさん紺色の服なんて普通だと思うかもしれないけれど、僕は紺色の服さえ持っていなかった。撮影のときは『ミヤジは白のシャツだろう』と期待されているから、白いシャツに黒いズボンなんですが。そういう変化に自分でも驚いています」

黒ではない服を選んでいる自分に感動

──ショッピングはもともと好きなんですか?

「古本や骨董もそうですが、買い物は大好きです。今年になってから特に頻繁に洋服を買いに行くことが増えまして。例えばユニクロで僕は白や黒ではなく、カーキ色のシャツや水色のズボンを買いました。涙が出るほど嬉しかった。黒じゃない服を、自分で選んで買っているんだということに感動しました。それで、洋服とは自由を買うことなんだと勉強しましたね」

──ショッピングするときには、店員さんからアドバイスをもらうんですか。

「お店の方は自分よりも一家言あるわけですから、本気で勝負をしている人だと僕が思えば、かなりの部分参考にするようにしています。こちらも情熱を持って買いに出向いているので、お店の方がロマンを持っていて、自分の想いに応えて下さると本当に嬉しい気持ちになります。骨董屋さんだってそこの親父さんのキャラクターによって扱うものが異なりますし、自分に合う店を探すにはやっぱりそれなりに経験しないといけません。とにかく洋服ってのは、より自分自身に近いことですから。以前は古地図を見ながら散歩して、二度とは戻らない江戸の街を頭の中に再現していましたけど、そういう壮大なものより、より身近で気分を変えてくれるものに惹かれるっていうのは、ある意味、服に“夢”を見ているのかもしれません」

エレファントカシマシから 届いた明日への応援歌

Photos:Kazuharu Igarashi Interview&Text:Miho Matsuda Edit:Masumi Sasaki

Profile

宮本浩次Hiroji Miyamoto 1966年、東京生まれ。エレファントカシマシのギター・ボーカル、作詞・作曲担当。81年、中学・高校の同級生だった石森敏行(Gt.)高緑成治(B.)冨永義之(Dr.)とともにバンドを結成、88年、『THE ELEPHANT KASHIMASHI』でデビュー。以来、「悲しみの果て」「今宵の月のように」を始め多くのヒット曲を生み出す。2012年体調不良につき1年間活動休止。翌年、復活し活動再開。8月3日、最新シングル「夢を追う旅人」リリース。9月に日比谷野外大音楽堂、10月にツアーを予定している。

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